真田ピロシキ

ユンヒへの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

ユンヒへ(2019年製作の映画)
4.0
岸辺露伴の時にも書いたんですけど、『ストリートファイターⅥ』っつー段ボール被った人間やルンバや冷蔵庫と戦わせる話を「これが目玉のストーリーモードです」と出してきた人をバカにしきってる幼稚なクソゲーにブチ切れましてね。こんなバカどもが作ったゲームは今すぐ見切りをつけたいのですがこのジャンルに引き摺り込んだハン・ジュリだけは未練を断ち切れず、このキャラはほぼ確実にレズビアンかバイセクシャルとして設定されてて看板キャラである春麗のことが好きなので、公式のゴミをガン無視して同人小説書き始めたんですよ。恋愛小説。当然痛い妄想ですが、何話か書いてるとひっそり公開したいとも思うようになり、だったら描写もリアリティを増したいじゃないですか。それでレズビアン映画を見て参考にできるかなと思い、前から気になってたこれを選びました。

岩井俊二オマージュを公言してる通り、冒頭の車窓から覗く風景がいかにも岩井風味。しかししばらくの間は地味。これは様々なものを諦めさせられた主人公ユンヒの韓国での生活には彩りがないことを示してて、勝手に母宛の手紙を読んでポーッとしたり彼氏と仲良くしてる娘セボムはなんてことのないものを写真に収めてるだけでどこか賑やかなようにコントラストが効いている。もう1人の主人公で20年前にユンヒと想い合ってたジュンは小樽に住んでいて、彼女の父の墓参りから舞台が移るとその撮影美がうっとりする。ロングショットがとにかく良い。光の配置が絶妙で、光量も主張が激しすぎない匙加減。室内でもライティングの妙味。写真を映画のピースにしてるだけあり、瞬間瞬間のショットが与えてくる印象が強い。

話は20年ぶりに出会う同性の想い人になるのだが、もう40代の中年であるのでジェットコースターな大恋愛劇にはならない。ほとんどは両者が何気ない日常的な(旅先でさえ)営みの中で交わす会話だけ。その内容は特別面白いことを言ってはいないのに、先述した映像美のなかで話しているだけでも絵になる。遂に2人が20年ぶりに再会しても「오레만이네(久しぶりね)」「그렇네(そうね)」だけで終わらせる抑制を効かせた語り口。それだけでもこれまで描かれてきた2人の背景から隙間を満たされる映画の魔術が生み出されている。設定ではなく生きた世界と人間を描いたから成立し得て、また受け手の理解力を信頼している誠実さ。どこぞの幼稚クソゲーには爪の垢を煎じて飲ませたくらいでは全く足りない、物語を書くということを知らしめてくれた。

ユンヒの同性愛を知った両親は治そうと精神科に入院させようとしたり、兄だけが大学に行かされたような男尊女卑の様子といった東アジアに共通した問題提起が映される。それらは苦く不幸せな過去だったが、ジュンと再会したことで可能性にも自ら蓋をしてたユンヒが新しい道に進み始めてて、これを人生折り返し地点に入った人でやってることに本作の意味深さを強められる。日本描写も丁寧に感じられ外国映画に消費されるニッポンとは程遠い。韓国作品は元々こういう点はかなり真面目にやってくれてるものが多いが。

最後に同人小説へのフィードバックについてはレベルが高すぎて何の参考にもできないと感じました。まだ『お嬢さん』の方が反映できそう。