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WAVES/ウェイブスの821のネタバレレビュー・内容・結末

WAVES/ウェイブス(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

滑り込みの劇場鑑賞でした。
予告をチラッと見たときはインスタ映え爽やか青春映画か…と思ってたんやけど、その後皆様のレビューや感想を目にして、どうやら『思ってたんと違うかった』系の重い作品であるという覚悟は出来てました。なので、中盤のショッキングな展開はすんなりと受け入れられました。ヨカッタ。

「プレイリスト映画」と称されてるだけあって、挿入歌がマイアミの暑いけど爽やかな風が吹き抜ける気候にマッチしてた。でも私的には、音楽よりも色の使い方と色彩の方が印象に残ったかな。特に前半での。

前半/後半で作品での主体がガラッと変わるので、その変化に驚いた。その中でも前半のタイを軸とした話がとても良くできていたように感じる。冒頭の回転するカメラワークやひたすらタイを追ったカット、臨場感と画面への吸引力がすごくて、あっという間に作品の中に引き込まれてしまった。
子供に重すぎる期待を寄せる父親は完全にコンプレックスを背負っていて、それを息子に解消させようとしている。薬物中毒で死んだ元妻、それから再婚相手として選んだのは社会的に『成功』して確かな地位を築いた人。上昇志向がありありと現れている。自分の現状には満足しているけど、息子にはそれ以上の成功を望んでいる。強権的なパターナリズム。それが、当人の問題だけでなく、「自分たちが成功するには他の者より10倍努力しなければいけない」のようなセリフからも取れるように、『ルース・エドガー』でも描写されていたようなアメリカの社会構造が一因になっていることも示されていた。
もっとも、本作はそのような社会的な側面でなく、「家族」というより小さい単位にフォーカスしたものだったんだけども。抑圧的な父親のプレッシャーを受けた結果、無理がたたって選手生命を失くてしまったタイは、自分自身を失って抜け殻になってしまったようになる。さらに、ガールフレンドの妊娠という、高校生活で考えられうる最悪な出来事のダブルパンチ。
この一連の転落が、本当に辛くて見ていられない。タイと同じように、自分の息も詰まる。カップルとしてチャレンジングな場面に直面したタイの姿は、完全に父親の再生産。冒頭で鍛えられ上げた肉体を自撮りしていた自信は完全に喪失していて、パーティ会場で鏡と向き合うタイは、まるで自分ではない誰かを見つめているようだった。

色彩の変化が印象的だったと上記したけど、このパーティー会場での色の使い方は鮮烈だった。他の男と親しくする様子を暗がりから眺めるタイ、嫉妬の怒りに狂うときは血のような赤いライトが彼を照らす。連行される時はパトカーの赤・青が印象的で、彼の目まぐるしく渦巻く激情と悲哀を表しているようだった。前半の展開は本当に胸が苦しくてなった。その描写の仕方が、とても優れていたと思う。

一転して後半は妹エミリーを軸とした展開。正直、前半でさほど注目して見てなかったので、えっいきなりやなっていう驚きを隠せなかった。でも、ルークとの出会いで愛を育み、他人の一番脆弱な部分を目の当たりにし、傷を癒すことで、自分の傷をも癒す。そして、エミリーの存在が、破綻してしまった家族の形を取り戻すことに繋がってゆく。
エミリー役を演じた役者さんの透明感と瑞々しさ相まって、彼女の存在が完全にウィリアム家の救いと希望になっていました。
彼女自身もタイのことを許せなかったり、サバイバーズギルドに苛まれたり、ルークとの関係は単なる現実逃避の側面もあったんだけど、それが現実とちゃんと向き合うきっかけにもなる。ルークという人物を心から想った結果、自分と家族を救うことになる。自転車に乗って空を仰ぐエミリーの姿に象徴されるように、希望と可能性の残るエンディングで本当に良かったなと思いました。
ちなみにここまじグサヴィエドラン。

お父さんとエミリーのシーンだけが、作品のコンテキストから浮いている感を得られずにはいられなかったんだけどね…。お父さんに無理やりいい事言わせようとしてようとしてる感じが透けて見えてね。

暗くて重い作品で、編集に荒削り感が少しあったけど、私的にはかなり満足度が高かったです。
前半でめちゃくちゃ入り込めた分、後半の切り替えがうまく受け入れられなかったけど、エミリー役の役者さんの存在で全て持ち直した感じでした。
それにしてもルーカス君は作品選び上手よね。彼が出てるの、大抵当たるもんな〜。
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