緋里阿純

ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONEの緋里阿純のレビュー・感想・評価

4.0
『ローグ・ネイション』『フォールアウト』に続いて、クリストファー・マッカリー監督による3度目の『M:I』。
鑑賞前に、これらの作品を予習しておくと、登場人物の関係性が理解しやすく、より楽しめるはず。幸い、どちらも傑作の為、決して苦にはならないだろう。

ベーリング海にて、ロシアの潜水艦“セヴァストポリ”内部で人工知能(AI)が暴走する沈没事件が発生。
乗組員を殺害し、邪魔される事なく氷の下で更なる成長を遂げた“それ”は、やがて様々な機密情報にアクセス、情報を収集し、世界情勢を脅かす脅威となる。
ハントは、“それ”の抹殺の為、仲間たちと共に最大の脅威に立ち向かう事となる。

現実でも様々な問題点が指摘され(ただし、現実は人間の手による利己的な悪用だが)、ハリウッドでも実に60年以上ぶりに俳優と脚本家が共にストライキを起こす事態の要因の一つとなったAI技術が作品の黒幕として登場するのは、何とも皮肉。
主演のトム・クルーズも来日予定をキャンセルして参加する事になり、それ故か本編上映前に監督と共にビデオメッセージを送っていた。

「AIが人間の予想を超えて成長した場合、人類はどう対処すべきか?」というのは度々映画や小説でも描かれる展開だが、本作の冒頭では巨大ドームのような室内にズラッと机とタイプライターを並べ、人の手によってデジタル化して保存されている機密情報を全て文書化するという手法が用いられる。何処か滑稽にも映る描写だが、この作業の様子こそが、本作の現実と作中におけるテーマを象徴しているとも言える。
つまり【「デジタル」に対抗するには「アナログ」だ】という事だ。仲間との連絡は短波無線、ハント達IMFを追う情報局も古い通信機器を駆使しての捜索と、とにかくアナログ手法で挑む。
また、近年のトム・クルーズ作品で顕著な「CG処理とスタントが当たり前となったアクションシーンの撮影を、全て実際に演じる」というアクション面での数々の挑戦もまたアナログだ。特に、終盤のオリエント急行で展開される車上でのアクションは、シリーズ第1作目のオマージュであると同時に、1作目ではセットを組んで撮影したアクションを、実際の列車を用いて改めて演じるという徹底ぶり。

その他にも、ローマでのカーチェイスシーンや予告編でも強調されていた断崖絶壁からの落下と、そのどれもが実際に行われたものだと知ると驚愕と拍手喝采のアクションの数々にはただただ唸らされるばかりだ。

また、前作のラストでこれまでのイーサン・ハントの物語(最愛の妻を守る為に、彼女と別れて戦い続けている)に1つの区切りがついた事で、本作ではハントが「共に戦う仲間を守る」という信念が強調され、更にIMFに加入する前の過去と対峙するというシリーズの集大成感も演出される。余談だが、まさかここに来てIMF:impossible mission forceという組織名の由来に触れられるとは思わなかった(笑)

しかし、そんなアナログに拘る信念が反映されたストーリーとアクションは確かに凄まじいのだが、ハント以外の登場人物の扱いが些か淡白だったり雑な印象は拭えない。
敵役のガブリエルとの因縁は、来年公開予定の『PART TOW』で更に掘り下げられるだろうから構わないが、シリーズのお馴染みキャラとなっていたイルサの最期がアレというのは些か納得がいかない。ハントと同じ特殊工作員という経歴を持ち、奥さんという“愛する人”とはまた違う、仕事の苦悩を分かち合える“相棒”的な側面が強まってきた所での退場というのは、あまりにも勿体無いように思う。また、ベニスで急に恋人関係のような発展の様子を見せた事にも違和感と死亡フラグ感があり、まさかそれが現実となってしまうとは。とはいえ、肩にナイフが刺さっただけで、元MI6の工作員が死ぬとも思えず、あまりにも淡白な最期は、むしろ次回で切り札として登場する伏線(冒頭でも「君は死んだという事にしろ」という台詞がある)とも思えるので、そこへの期待は残しておく。
そんな彼女と入れ替わりといった形で、新たにチームに加わる事となるグレースの描写も、前半は自由奔放なスリとしてハントらを翻弄しつつも、窮地に陥ると度々ハントの足を引っ張る役になってしまうのはストレス。後半、IMFに参加する事でようやく彼女なりのプライドや役割という色が出て来たが、現段階ではイルサをクビにしてまで迎え入れる程の存在なのかは疑問が残る。

前・後編の前編という構成の中で、最低限ハント達に華を持たせて次回へ続くという展開は、なるべく1本の作品として成立させようという努力なのだろうが、やはり美味しい要素は全て次回へ持ち越しなので、今作のみでは判断しかねる部分も多く、そういった意味では前作・前々作には劣るといった所。
とにかく、早く次回作が観たい。
緋里阿純

緋里阿純