真田ピロシキ

コリーニ事件の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

コリーニ事件(2019年製作の映画)
3.8
原作小説を読んでるので変更点で気になったところから述べてみる。主人公ライネンがトルコ移民で父と不仲になっているのは、「祖父がいなかったらあなたはケバブを売ってた」と言われてたようにライネンに道を示したハンスとの親子のような結びつきを原作以上に強化してて、その仇であるコリーニを弁護する葛藤も強められている。更に原作よりコリーニの動機として父を強く紐づけられており、父をきっかけにライネンに僅かばかり心を開くように父と子は本作を象徴するテーマとなっている。原作は基本が固い法廷劇なので映画化するにあたってこうした切り口を加えたのは正解だと思う。同様にミステリーパートでバディ的な役割を与えられるピザ屋の女性は原作にいないキャラクターだが映画の重さを多少なりとも緩和するのに役立っている。相手方のマッティンガー弁護士を悪役っぽく描いたのは少し分かりやすくしすぎか。とは言え全体的に良い脚色と感じた。

原作を読んでなくても本作がナチス絡みの話なんて事は大抵が想像つくと思う。この物語で発せられるのはライネンが父同然の恩義を受けたハンスの罪を知った時になかったことにせず真実を明らかにする弁護士としての姿勢であり孫世代の態度表明でもある。加えて戦後、元ナチス検事のドレーアーによって幾多の戦争犯罪を不問に処した秩序違反法の告発もあって祖父世代の膿を出そうとしている。なのだが、ライネンが移民設定なために孫視点の告発はやや薄れたように感じられた。

それはともかく、こういう悪法が成立し得たのは戦争責任がしっかりしていると言われるドイツでも隙あらばなかったことにしたがる人達が出ていたのかもしれず、ナチスは容易に精算できる過去ではない事を示している。救いはそれ以上に抵抗する声が強かったのだろうと思える事で、秩序違反法による時効問題に関しては原作の出版がきっかけで再検討されたという。現実に与えた影響を考えてもこの話は単なるフィクションに留まらず相当に深い。原作者の祖父が実刑判決を受けたナチスの高官という事実を踏まえて見ると、ハンスの孫であるヨハナの見え方も意味深い。