このレビューはネタバレを含みます
【不器用でいい。片想いでもいい。】
『アイネクライネナハトムジーク』のキャスト、主題歌、原作などとはスケールが違うのだとすれば、『mellow』には、入り組んだ小道をすこし中まで進んでから見つかる、洗練されたカフェみたいな落ち着きと素朴さがある。そこがいい。それでいい。
自分が生活の中で心に留めておきたくなる一瞬と、今泉監督の映画で流れる時間とが、似ている。例えば、「あ、この人、あの人と全く同じこと、同じセリフで言った」……とかね。
日々過ごす時間の中で、これから先もずっとこのことを覚えていたいと思う目の前の出来事。今泉さんの映画を観ると、「これこれ、この瞬間……!」と納得する。この『mellow』で確信してしまった。だから、好き。
今泉映画は、群像劇での“顔を見えない誰かへの好き”を描くのがうまい。あなたの好きな人って、だあれ?どんな人?って、誰かと話しているような。もっと聞いて、もっと知りたくなってしまうような気持ちになる。そうすると、心地よくカットも変わるのだ。
好きな人の話をする好きな人って、ものすごく可愛いから。不器用でも。片想いでも。