SPNminaco

ダンサー そして私たちは踊ったのSPNminacoのレビュー・感想・評価

-
まずジョージア舞踊がすごい。激しく複雑な足さばき、アクロバティックな跳躍、鍛錬された身体、磨り減った床、消耗する体力。厳しいレッスンに耐えながら、メラブはじめ若いダンサーたちの生活は苦しい。とはいえ、稽古場を離れればホモソーシャルやダンサー同士の恋愛、当たり前に青春がある。そういったダンスと若さの描写の積み重ねが、後半とても効いてくるのだった。
ジョージアの精神を謳う伝統舞踊は、「男らしくあれ」と抑圧する保守的な権威の象徴だ。そこに柔軟で恐れ知らずな風を吹き込むイラクリは、メラブを解放する。2人だけの稽古場で、路上で、パーティで、おそらく初めて心から踊る喜びを感じたメラブの生き生きした笑顔。恋のときめき。踊ることは自分らしく自由になること。
それは当然のように受け入れられない。いや、伝統という抑圧が支配するのは2人だけではない。だからこそ、残酷な現実を前に兄が、幼馴染のGFが、新しい世代の扉を開こうと後押しする。そこがすごく良かった。審査の場で伝統衣装を着て、自由を踊るメラブを包む光(まるで『フラッシュ・ダンス』!)。止まらないスピン、止まらない伴奏。たかが「50年前に作られた伝統」(これ自体ソ連支配下の抑圧だ)は打破することができるのだと示す、力強い抵抗。本当は誰しもこの閉塞した状況を良しとはしてないんだよね…ジョージアでなくてもそうでしょ。
終盤の結婚パーティでメラブを追いながら、その周囲と外へ流れるカメラワークがまたすごい。序盤で悲劇を示唆する脚本から、あの一連の流れへと、エモーショナルでドラマティックでダイナミックな説得力。何より、メラブ演じるレバン・ゲルバヒアニがダンサーとしても演技としてもとてつもなく素晴らしかった。視線、姿勢、泣き笑い、しょっちゅう何か食べて煙草くわえて、後ろ姿(背中)まですべてが繊細に雄弁なエモーション。
SPNminaco

SPNminaco