たく

水曜日が消えたのたくのレビュー・感想・評価

水曜日が消えた(2020年製作の映画)
3.6
モヤモヤするところもあったけど、なかなか面白かった。幼い頃の交通事故が原因で曜日ごとの人格に分裂した青年の話で、不自由な日常を生きる彼らの葛藤と最終的な選択にジーンと来た。人格分裂を、人間の多面性という本質的な要素のメタファーだと捉えるとなかなか深い。7つの人格を演じ分ける中村倫也がさすがだったんだけど、なんといっても彼を陰ながら見守る石橋菜津美に打たれた。

冒頭の事故のシーンで割れたサイドミラーに映る1羽の鳥が7羽に見えるのが、主人公の人格分裂を暗示してて上手い演出。本作は火曜日の人格を軸に展開する話になってて、どうやら他の曜日の人格はみな個性的で奔放な暮らしを送っており、家の掃除など実際的な生活面を全て火曜日に押し付けてるらしいことが分かってくる。この火曜日がなぜか水曜になっても同じ人格を保つところから話が動いてくるんだけど、彼が図書館職員の女性に恋するくだりのオドオドしたキャラが鬱陶しい。せっかく彼を気遣ってくれる素敵な幼馴染がいるというのに、何やってるんだろうと前半はかなりイライラした。

火曜日の症状に異常が現れ始めてから、最終的に人格統合すべきという彼の主張と、今のままでいたい月曜日の意見が対立し、正反対な二人に人間の二面性が象徴されてた。一見荒唐無稽に見える本作の設定は、実は同じ人間の中には多面性が存在し、その折り合いをつけるのが人間の本質なんだってことを言ってるようにも思えて、だからこそ月曜日の最後の選択に繋がったんだと考えると感慨深い。ここは解離性障害を扱った百田尚樹の「プリズム」と正反対の結末だった。

なんで彼があんな豪邸に暮らせてるのか、収入はどうしてるのか(木曜日が一人で稼いでるのかな?)、主治医がなんで彼の症状を隠し続けたのか(すでに記事になって公表されてるし、結局あのラストに繋がるし)。石橋菜津美がすごく魅力的なのにあまり出演作がないのも含め、モヤモヤポイントがけっこうあった。
たく

たく