このレビューはネタバレを含みます
まさかポール・ウォルター・ハウザー主演作を生きているうちに拝めるなんて。イーストウッドの着眼点パネエ。自分で久しぶりに主演した作品の次がこれかよ。
そしてここ最近の彼の作品の中では一番実験性が薄く、オーソドックスな映画。
おそらくアイ、トーニャであの陰謀論デブを演じていたポールに注目して対になるような役をやらせたんだろうが、ここまでハマるとは。確かに自分の名誉のために爆弾仕掛けそうだもの。
トーニャのショーン役の時もそうだったけど、彼が演じる役は基本的に間違ったことをしていても、自分は純真にやっていることの正当性を信じている狂気の存在だったから、ジュウェル役もまあハマるハマる。
今回も愛嬌もあるし、朴訥で、真面目そうだけど、どこか狂気を孕んでいそうな役を見事に演じていた。ていうか見ててももしかしたら本当にやってんじゃないかって思ってしまうような危うさがある。これは「テッド・バンディ」の逆ですね。
そしてそんな男の親がキャシー・ベイツというのもなんだか怖い。かつてのミザリーだもんな。とはいえお人好しで状況に流される普通の母親も完璧に演じてみせる。さすがの名女優ぶり。
そして我らがサム・ロックウェル兄貴。一生ついていきます。どんだけかっこいいんだよ。もうロックウェル兄貴が出てればいい映画の法則が確定しそうだぞ。
胸糞悪くなるような話をエンタメとして成り立たせていたのはロックウェル兄貴をはじめとしてキャスト陣の力と余計なことをしないイーストウッドのさじ加減ゆえ。
オリヴィア・ワイルド演じる記者がデマの情報源にも関わらず母親の演説聞いて泣いてるのはちょっと「は?」ってなったけど、いつの間にかそこまで事態が変わってしまっているのもイーストウッド御大の無駄のないストーリーテリングあってこそでしょう。
明らかにハドソン側の奇跡15時17分、パリ行きの系譜に続く大惨事を防いだヒーローの物語だけど、今回は前二回と違って死人が出てるし、容疑者扱いされてしまうなどなど主人公への受難が増えている。
どちらかというと保守寄りで、国家を盲信しがちなジュウェルの自分で自体を打開するまでの成長譚も描きつつ、その場でできることを職務の範囲で愚直にやりきることの大切さも伝えてくれる。俺だったらあの仕事あんなに真面目にはできないもんなぁ。
ラスト、ジュウェルがあんな体型のせいか早死にしてしまっていたのは残念だったが、弁護士との友情描写で爽やかに終わってくれたのは良かった。
それにしても結局お相手なしの非モテだったのは変わらなかったのか・・・現実は非情。
しかしそのことによって彼の聖人っぽさが強まる。
不満点
・ウォルターハウザーが主演じゃないかのようなクレジットの出し方は一体何なのか
・あの記者の功罪をもっと描いて欲しかった
・ジュウェルの過去がもっと見たかった
・もうちょいメイクとかで時間の経過を見せたほうがいいんではないか
とはいえ毎年こんなハイクオリティ映画を持ってくる御大は凄すぎる。