むらむら

心霊×カルト×アウトローのむらむらのレビュー・感想・評価

心霊×カルト×アウトロー(2018年製作の映画)
5.0
「北九州で変なこと調べようっちゃろ? あそこらへんは危なかけん、注意せないかん」

と登場人物に身も蓋もないことを言われ、北九州出身の俺が涙目になった作品。

ぶっちゃけ、「100万人都市」と持て囃されながらも、現在は斜陽化でグングン福岡市に差を付けられている街・北九州。若者は東京や福岡市に逃げ(これを「脱北」と言う)、老人とヤクザが徘徊する街・北九州。現在東京在住の俺に言う資格はないかもしれないが、そんな北九州を舞台にした作品があるなんて!

「心霊×カルト×アウトロー」
「福岡県北九州市を舞台に繰り広げられる前代未聞の裏社会派ドキュメンタリー」

……タイトルとアオリは些か気になるものの、北九州の魅力をちょっとでも伝えてくれるのなら、出身者としてこんな嬉しいことはない。そう思って鑑賞。

■心霊

冒頭、東京で映像制作会社を営む監督のもとに、以前一度会った知人から、一本の映像が送られてくる。この映像に変なものが映っており、一緒に映っている友人の一人が失踪したという。

ふむふむ、いきなり心霊か。

確かに、北九州、事故物件サイト「大島てる」から、

「注目エリア」
「事故物件を購入した人も自殺する」
「他の殺人事件が平凡に思えてしまう場所」

とまで名指しされているホラー特区。

しかも、俺のリサーチによると、ネットでは「修羅の街」「マッドマックスのロケ地」とまで揶揄されている。

まぁ、そこまで言われてるし、心霊をネタにして、観客を掴みたくなる気持ちは分からんでもない。そう思って、気を取り直して、鑑賞を続ける。

「えっ、いきなり、アウトローすぎない……!?」

この作品の心霊映像、たしかに謎のカルト紋章とか、変なところに手が見えたりとかしてるのだが、一番気になるのは、映っている二人がコカインを決めているところ。

いやいや、普通、こんな逮捕必須の映像、他人に送りつけんやろ。それとも何? 監督は「北九州ではこれが当然」とでも言いたいん??

うーん、掴みとしては強烈だしOKなのだが、出身者としては複雑な気分……。

気を取り直して、続きを鑑賞。

監督たち一行は、現地調査のために、福岡へと飛ぶ。

そこで現地の知り合いに連れられ、北九州の小倉に、失踪者を知ってる人がいそうだ、ということで、小倉の繁華街で聞き込みを始める……。

この辺りのシーンで、俺の期待してたような「人情の街・北九州」の描写が無さそうなことに気づく。

むしろ、「修羅の国」のイメージを助長してる。

■アウトロー

まず、街で話を聞かれる連中が、めっちゃ悪そう。さすがジャージが正装と言われる街。モザイク越しにもビンビン伝わる、ヤンキー臭とヤクザ臭。

「このあと、出演者全員、オレオレ詐欺でパクられました」

と言われても、一般視聴者は信じてしまうんでは?

途中出てくる、監督の地元の友人たちもインパクト抜群。オカンが空手の先生、腕にはタトゥー、無意味に空港の駐車場にタムロするヤンキーたち。うーん、この映像観たら、一般視聴者、北九州を日本のブロンクスと誤解してしまいそう……。

そんな強烈な地元軍に、東京から来た撮影チームは、ライオンの檻に投げ込まれた子猫のようにタジタジ。

アマプラの紹介文には

「予想だにしない事態の連続」

と書いてあるが、そんな劇的な事態は殆ど起こらない。

俺の想像した「予想だにしない事態」というのは、撮影チームの女性二人が、ヤクザに拉致られて慰み者にされるとか、監督が洞海湾に浮かんでる、といった展開だったのだが、運の良いことに、そんなことにはならなかった。

後半、お金が足りなくなり、クラウドファンディングで100万円集めるとか、父ちゃんに仕事で北九州に行くことを責められながら(冒頭に書いた会話)金を借りるとか、そんな事態は起こるものの、俺の期待した「北九州の魅力」は、残念ながら、作品からは発見できなかった。

ってか、この映画のどこに100万円もかかってんの? お金ないんやったら、監督一人で行くとか、飛行機じゃなくて、自転車で北九州まで行くとかすりゃいいじゃん。平野勝之なら絶対自転車で行ってるよ!

(ここから、地元民にしか分からないイチャモンに近い俺の言いがかりが混じり始めるので、北九州以外の人にはチンプンカンプンだと思います)

■俺のイチャモン

他でもない我が街、北九州を前面に出してるんだから、もうちょっと地元ネタ入れてほしかった。

飛行機で来るにしても、福岡空港じゃなくて北九州空港使ってよ。

確かに、中心街から地下鉄で10分の福岡空港が便利なのは分かりますよ。

でも、やっぱここは、1日に10本しかない高速バスでしかアクセスできない、海上にポツンと建設された北九州空港を使う、ってのが地元愛ってもんじゃないの!?

百歩譲って飛行機で来たとしてもさ、そのあとレンタカーで回ってたら、北九州の魅力は伝わらんやん。モノレールと路面ቻンቻン電車を駆使してこその北九州やろ!

こーいう楽しい地元ネタがないけん、この作品だけ観ると、北九州、単なるヤンキーの産地みたいやん。成人式で頭に孔雀みたいなの載せてチンドン屋みたいな格好する連中しかおらんと誤解されるやん。

せっかく北九州ロケなんやから、もっと多面的な魅力あるやろ。

若戸大橋脇のポンポン船に100円出して乗船してみるとか、豊前裏打会のうどんを食すとか、銀河鉄道999のマンホール巡りするとか、朝5時という非常識な時間に開店する「虎家のパン」で40円のパンを買い占めるとか、帆柱山と皿倉山の見分け方を地元の人に教えてもらう、とか、北九州来たら、ヤンキーと出会わんでも、色々とやることあるんばい!!

ヤンキーにしても「シロヤベーカリー」の激旨オムレットで手懐けて、ヤンキーから情報引き出すとか、工夫してほしいっちゃけ。

だいたい、最初の心霊映像からして、もうちょっと地元臭入れて欲しいばい。不気味な手とかマークじゃなくて、心霊映像に、北九州で一番不気味と名高い、小倉駅近くのマカロニ星人群が映り込むくらい、してもバチは当たらんっちゃない!?

■カルト

あと、これかなりネタバレになってしまうとやけど、後半クライマックスで、謎の勢力による襲撃で、調査続行が不可能になるんよ。

このへん、本物の救急車らしき映像が出てきたりして、虚実ないまぜでドキドキするのはいいとよ。監督、原一男とか森達也なんかも研究しているようで、観察者が入っていくことで状況が変わっていく、虚実ないまぜな手法は、俺としては面白かったばい。

でも、そこで本当に北九州の恐ろしさを表現したいんなら、物理的な襲撃とかよりも、北九州ならではのやり方があるっちゃないと?

監督の家のFAXに、個人宅なのにどっからみてもお城で、地元ではタブーになってるカルトスポット「楠橋城」の全景がカタカタと送られてくる……とか。

これやったら、北九州民(特に八幡西区)、みんな

「あっ……」

って口を閉じて、取材続行できんくなるんよ。

「ゴッドファーザー」で投げ込まれた「馬の首」以上に、北九州民には上記「○○城」は効くと思うばい。俺もこんなこと書いたけん、明日、行方不明になっとるかもしれんばい。

まぁ、そんな感じで、もうちょっと北九州の魅力とか、北九州ならでは、の部分を強調してほしかったばいね。

■おわりに

ついでに言うと、エンドロール。

エンディングテーマ曲として、なんか格好いいドープなヒップホップ曲が流れるとよ。確かに「修羅の国」のイメージで、こんなヒップホップ曲やったら、オシャレでいい、っち思う部分もあるとよ。

でもさ、北九州やったら、ここはやっぱり、北九州の誇るグローバル企業・TOTOによる、「TOTO便器の歌」やろ!

「流せ 流せ 流せ 流せ 流せ ぼくらのTOTOべんき !」
「でっかいウンチ ちっちゃいウンチ お尻を拭いたその紙も」
「流せ 流せ ティーオーティーオー ぼくらのTOTOべんき !」

を劇中に出てきた反社っぽい人たちと一緒に、みんなで大合唱してほしかったばい!!

罰として監督は、北九州空港の足湯に24時間浸かる刑か、「八幡製鉄 1901」の溶鉱炉で溶かされる刑に処されてほしいばい。

次回作はもうちょっと北九州のこと入れてほしいくさ。

ついでに出来れば、次回作では、ちょっとだけ中間市(俺の実際の故郷)のことも入れてください。(なぜかここから「です・ます」調に)

中間市は、市役所の職員ぐるみで生活保護不正受給したり、住職が殺人未遂犯したり、コンビニ店長が売上持ち逃げしたり……そんな、ぶっそうな事件ばかり報道されて悲しいのですが、本当は良いところなんです。

というわけで、次回作では、中間市のイメージアップに役立つ展開も盛り込んでいただけるという期待を込めて★5です。
むらむら

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