TAK44マグナム

カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇のTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

3.8
井戸から、貞子よりも恐ろしいモノが溢れでる!!


ニコラス・ケイジ。
ある時は、キチガイじみた訓練で幼い娘に鉛弾をくらわせても平気な狂人。
ある時は、キチガイ教団に孫をさらわれ怒り心頭、地獄から蘇る狂人。
ある時は、キチガイ教祖に奥さんを陵辱され、トイレで雄叫びをあげる狂人。
ある時は、キチガイ電波?のせいで自分の子供を殺したくて仕方なくなる狂人。
そう!狂った役をやらせたら、いつの間にか右に出るものがいなくなっていた、それがニコラス・ケイジ!
昨今では、出演すると「今度はどんな狂った顔芸を見せてくれるのか?」その一点に世界の注目が集まるようにまでなった、まさしく狂人演技の第一人者であります!

そんなニコラス・ケイジ(以外、ニコケイ)が満を辞して、稀代の怪奇作家H・P・ラヴクラフトが自身の最高傑作とした「宇宙の彼方からの色」に挑んだのが本作、「カラー・アウト・オブ・スペース-遭遇-」であります。


ど田舎の森の中で牧場をやっている家族を襲う未知なる恐怖!
ある夜、天空から降ってきた隕石。
その正体は、謎に満ちた不可視の生命体であり、他の生命を食らう恐るべき「色」なのでした!
生命力が満タンになると再び他の星を目指す、つまりは「ガメラ2レギオン襲来」と同じようなシステム!
そんなわけで段々と「色」によって侵食されてゆくニコケイ一家。
ニコケイは当然のように狂いだし、お母さんと次男は怪物と化し、長男は井戸に落っこち、1人残ったゴスな長女も・・・
とにかくワケが分からないけれど凄いことになってしまう!
ドーン!となってバーン!
ビカカー!と光ってギューーーン!
イマジネーションの大爆発!
岡本太郎だよ、これは!!


・・・というように、終盤はものすごい迫力の映像と音で押し切ってしまうのですが、そこまではビジュアル含めて、やっていることは既視感があるのも事実。
一家が飼うアルパカがブギャーー!となるキモい場面も「遊星からの物体X」を彷彿とさせる、いわゆるアルパカXですし、「スリザー」のマイケル・ルーカーの末路にも似ています。
つまりはクトゥルフっぽいわけで、そう思うとラヴクラフトのイメージを忠実に再現したんだろうなと思えますね。
というか、いかに既存のこういったクリーチャーがクトゥルフ神話のビジュアルイメージに影響を受け続けているのかが(逆に言えば抜け出せていないのかって事にもなりそうですが)如実に分かる作品です。


単純に面白いかどうかで論じるなら、その答えにつまってしまいそうなのですが、やはりニコケイの存在感は別格で、本当にこういう作品にかけがえのない俳優さんだという認識を強くしました。
狂ってゆくニコケイを見るだけでも間違いなく価値のある映画だと思います。
誰もが凄いと思うであろう名場面が、収穫したトマトや桃がメチャクチャまずかったので(「色」に侵食されると食べ物が不味くなるみたい)、ふざけんなよ!とばかりにゴミ箱へのダンクシュート捨てをみせるところ。
もうね、ニコケイ完全にイッちゃってます(汗)!
他にも、車が動かなくなって当たり散らしたり、娘を餌として差し出そうとしたり、ニコケイが何かをするたびに苦笑いするほかなくなるんですよね。
そういった点では最高のニコケイ映画ですよ、これは。

そもそも、一見すると幸せ家族に見えるニコケイ一家ですけれど、その実、かなり危うい状態にあったんだと思われるんですね。
その幸せは薄氷の上に成り立っていたというか、おそらくニコケイに家族が振り回されているんではないかと。
画家になる夢を抱いて都会に出たは良いが、結局は夢破れて田舎に引っ込んで主夫をしているニコケイ。
金融プランナーをしている奥さんの稼ぎで生活している状況で、芸術の話題なんてしもしなくなっている。
そのくせ、自分がテレビに出ていたりすると家族全員に見せようとする自己顕示欲の強い父親像。
閉塞感からか長女は家をでたいと願っているし、想像するに次男に友達はいないのでしょう。
奥さんも内心では田舎に引っ込んで主夫をしている夫への不満がありながらも必死で取り繕っている感が垣間見えます。
それでも夢見る長男が縁の下でがんばったりして、なんとか持ち堪えている最中に隕石が落ちてくるわけです。
そして侵食されることによって隠し持っていた不平不満が表に出てくるようになり、それが狂気へと昇華してゆくのが最大の見どころ!
終盤に現れる「幻影」は、ニコケイが夢見た「理想の家族」だったのかもしれません。
ニコケイの演技力、さすがです。

そんな風な本作、言うなれば「シャイニング」みたいな映画でしょうか。
あれは悪霊によって精神がおかしくなるニコルソンの狂った演技が見ものでしたが、「マッドダディ」もそうですし、本作でも宇宙からの生命体によってニコルソン化したニコケイパパのイキすぎた顔芸が炸裂する、それだけでもうお腹いっぱいにさせてくれる作品。
ピンクとかパープル、マゼンタ系のカラーが好みという方にもオススメです。
思いっきり侵食されてください(汗)!



※関係ないかもしれませんが、敬愛する漫画家さんの関よしみ先生の傑作「マッドパパ」もある理由によってパパが狂うお話。そして奥さんが料理中に指を切断してしまう場面があります。
これ、まったく同じ場面が「カラー・アウト・オブ・スペース」にもありました!
偶然の一致でしょうか?
ほとんどの場合、関よしみ先生の描く作品は人が狂うので何編か集めてオムニバス映画化してほしいです。
もちろん、狂う役はぜんぶニコケイにお願いして(苦笑)!


劇場(チネチッタ川崎)にてす