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カサブランカのRのレビュー・感想・評価

カサブランカ(1942年製作の映画)
4.7
名作中の名作カサブランカを久々に見てみた! これで3回目かな? 過去2回見たときはザ・名作って感じだなーと思ったけど、そんなに好きだった印象がなかったので、今回はどう思うだろうか。ワクワク😆 結果、ひとまず、間違いなくこれはものすごくウェルメイドな映画であります。メロドラマのストーリーテリングに関しては申し分なし、ほぼ完璧なのではなかろうか。特に、カメラの動きと出演者の動きがミュージカルみたいにコレオグラフィってる感覚はすごく見応えがあった。ストーリーはシンプルっちゃシンプルなんやけど、設定が若干ややこしい。1940年が舞台やから、第2次大戦中、1941年は日本軍によるパールハーバーの奇襲、なのでそれの直前てことですね、まだアメリカが参戦していないころ。その直前。ナチスドイツの侵略から逃れ、アメリカに亡命しようとするヨーロッパ人にとって、移動の中継地点になったのが、フランス領モロッコのカサブランカ。だからいろんなバックグラウンドの人たちが入り乱れてる。みんな次の中継地点であるリスボンへの通行書を手に入れようと必死だ。そんなカサブランカでカジノバー カフェアメリカンを経営してる男が主人公のリック。ある日、ウガーテという男がリックに近づき、「通行書を手に入れた、それをある人に売るまで預かっておいてほしい」とリックに預けるのだが、その夜、ウガーテは通行書を不法に手に入れた罪で逮捕される。いまやその在り処を知るのはリックのみ。その後、ラズロという反ナチの政治活動家とその妻イルザが、件の通行書を探して店にやって来る。リックとイルザの目が合った瞬間、この二人の間に深いドラマがあったことが感じられる……このシーンがとてもドラマチックかつロマンチックで、そこから回想シーンに入っていって、ことのあらましが分かるんですけれども、まぁさほど大したことが起きてたわけでもないんす。が、中世から近代以降、脈々と受け継がれてきたロマンティシズムのひとつの集大成として、本作が存在しているんだろうな、と考えると、とても感慨深いシーンです。リックを演じるのが、果てしなく男くさいハンフリーボガード。この人ぼくあんまり好きじゃない男優さんで、なんでなんやろーなーと不思議だったんやけど、何でかわかった! 喋り方と声があんまり好きじゃないんやわ。本作では、ロマンスに苦悩する男を演じてるんやけど、なーんか、そんなことに全然動じなさそうな顔面かつ声質なので、あまり切実なものが感じられず……それに対してイルザを演じるイングリッドバーグマンはロマンスにピッタリのビジュアルで、おまけに画面がぼーっと見える撮影をしてたりするので、役にピッタリ。それにしても美人です。まさにクールビューティ! このふたりの間のロマンス観とか世界観が違いすぎて面白い! 逆に、夫のラズロと妻のイルザはバッチリのケミストリー。この画面上での雰囲気が、その後のストーリーの行方をある意味で表してるとも言えます。で、ぱっと見は、映画全体のテーマがロマンスのようにも見えるんやけど、実際はもっと深いものがある。リックは、フランス人に対しても、ドイツ人に対しても、アメリカ人に対しても、常に中立的で、だれの味方もせず、政治的な話はやめてくれ、ってスタンスなんやけど、実際は、人情あふれるセンチメンタリストなところが言動の端々に出てて、特に弱い立場にいる人たちに対するアレがソレなんですね。ネタバレしそうなので誤魔化しましたが、そんなこんなをクールなダンディズムで隠してる。そんな彼が手にしている通行書をどうするのか、その一点が本作のダイナミズムになっている。この通行書が含んでいる様々な意味が、とても興味深い。が、それだけにとどまらず、リックの存在自体が1940年にアメリカがとっていた国際的なスタンスとかぶってるのも面白い。てことは、この映画のエンディングもある程度分かってしまうんやけど、それでも、ストーリーテリングの手際の良さ、スムーズな展開、光と影を巧みに交錯させる映像、ドラマチックなサウンドトラック、などなどのおかげでたいへん見る価値の高い作品になっている。いやはや、感想文書いてる間に僕の感想自体が変わってきてるわ。もしかしたら本作は本質的にそういう映画なのかもしれない、見てる最中よりもいろんなシーンを思い出しているときのほうが豊かに感じられる。ただ、この映画を皆々様に気軽にお薦めできるかと言われると困惑しますね。かなり勧めにくいかもしれない。その理由がなぜか、自分でも良くわからんのやけど、なんとなく、相当の映画好きじゃないと深く楽しめないような気がする。めちゃくちゃ年月を経たうまいお酒みたいな感じといいますか……お酒をあんま飲まない人が高級な酒を飲んでも、他の酒と変わらんやん、てなる感覚といいますか。そのようなものをこの映画には感じるのかも。僕はまだ見てないのですが、たとえば、風と共に去りぬ、とかもそんな感じなんじゃないか、と想像してます。知らんけど。どうなん。
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