さすらいの旅人

この世界に残されてのさすらいの旅人のレビュー・感想・評価

この世界に残されて(2019年製作の映画)
4.0
「本作はまさに宝石のような映画だ」と評価されるハンガリー映画
【VOD/WOWOWオンデマンド/配信視聴/シネスコサイズ】

アカデミー外国語映画賞候補にもリストアップされた作品とのことで鑑賞。

決して派手な映画ではない。42歳の寡黙な産婦人科医アルドと16歳の孤児である少女クララの物語である。共通項はホロコーストで家族を失った悲しみだ。
この悲しみと喪失感が二人を結びつける。一歩間違えるとスキャンダラスな関係に陥ることが予想されるが、この映画は冷静な視点で温かく見守る。この世界観が何とも言えない静けさと居心地の良さを描写している。

アルドは言葉が少ないがクララをいとおしく思っており、クララは父親の姿と重ね合わせて懐いていく。一線を引いた関係であるが、観客はいつそれが崩れるかとハラハラドキドキしながら観ることになる。観客のこの妄想や期待を裏切りつつ展開する演出が心憎い。
ラストで観客は切ない開放感を味わうが…。

戦後のソ連共産党の暗い支配を反映させながら物語は進む。これがホロコーストの悪夢を思い出させることにもなり、二人に二重の苦しみを与える。この辺のシナリオは暗にロシアを批判しており、現在のハンガリーの立ち位置を明確にしており社会性もあり秀逸だ。