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すばらしき世界の8637のレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
3.8
鑑賞後に虚しさが湧き上がったのは、三上が"善人過ぎる悪人"だったからであろう。
「仁義を貫く事がそんなに駄目なのか」「声を上げる勇気がないなら無視はマストなのか」なんて言葉のあやでしかない。
自分でぶちまけたラーメンは、自分で片付けるしかない。もとから人間は自分に対しての欲だけを成長させた塊だから。
更生したヤクザを同等に慕う人格、彼らを認めない人格...これだけ色々な人格があれば「これすらも人種差別だ」という思想も出てくるはずだけども。
こう考えてみると、周りに手を差し伸べてくれる人間がいるって、とてつもなく、奇跡。

驚いたのは、東京にも下町の様な地域社会がある事と、そういった面からの"監視"もあるという事。六角精児演じる松本は其れ関連のキーパーソンとして良いアプローチだった。
正直、僕はまだ社会の授業で公民にも触れていない程の青二才なのでとやかくは言えない。

しかし、偶然か必然か、これと同時期公開となった「ヤクザと家族 The Family」と比べてみると、映像美や久々のヤクザ映画というところから勿論「ヤクザと家族」が未だに今年の暫定ベストなのだが、人間ドラマ的な面だけで観客に責めていける今作もそれはそれで凄いし、今作で"ヤクザから足を洗った人のドキュメンタリー"と聞くと「ヤクザと家族」の悲惨な現代社会を思い出してしまうし、2作は連動している気がする。
「ヤクザと家族」の感想でも言ったが、今のこの"すばらしき世界"を作り上げたのは私たちである。私たちが嫌悪感を示さなければ、彼らの社会的→精神的→身体的な"排除"のサイクルもなくなって、こんなに悲しみに包まれた物語も消え失せるのに。

タイトルが出た瞬間、何故か心の中に「は?」という感情が浮かんだ。これはそのままの意味ではなく、そのタイトルに計り知れない大きな魔力を感じたからである。

じゃあこれを観て私たちはどうすれば良いのだろう。
映画はただの問題提起の場にしかなれない。それが一番虚しい。
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