このレビューはネタバレを含みます
圧倒的という言葉は役所広司さんのためにあるのではないかと思った。もしかするとこれまでの役所広司さんで一番凄かったかもしれない。俳優って、役者って、こういう人のことをいうのだと思う。お芝居としてあまりにプロフェッショナルであったし、役所広司さんではなく（役どころである）三上正夫という男以外の何者でもなかった。役所広司さんのこの演技を観るだけでもこの作品を観る価値があるといえる。
冒頭、刑務所から出所した後に身元引受け人と待ち合わせるため街の中をただ歩いてるシーンひとつ取っても、纏う空気が今さっき長年居た刑務所から出所した男の歩き方であり、眼であった。実際に見たことがあるわけではないから恐らくこういう感じであろうという想像になるのだけれど説得力が凄まじかった。
世間から受ける現実や、生い立ちが大いに影響し自己の思いではどうしようも出来ない二面生を伴う性格（温かさと暴力性）、患う病、生涯に渡る生きづらさを持ってしても何とか生きていこうとするその姿は中盤から「JOKER」でアーサーを演じたホアキン・フェニックスを思わせ既視感もあったため、全てを台無しにするほどまたブチ切れてしまうのでは無いかとめちゃくちゃ心配しながらその動向を追っている自分がいた。そして知的障害を持った阿部役の田村健太郎さんの演技がこれまた凄まじく彼の演技力×役所広司さんの演技力で号泣必至でした。
作品のラスト、その見せ方、エンドロールへの流れが狂おしいほど美しくこの作品の伝えたいとすることの全てがあの仲野太賀さんの演技と余白にあった。仲野太賀さんの演技もとても素晴らしかった。
是枝チルドレンとしての西川美和監督らしい緊張感と優しさと余白のある作品だった。ただ何度も観たいかというとそういう作品ではなくて、好きかと問われるとまた難しく、私にとって重たかったり得意でない内容を含んでいても何度も観たくなる作品というのはたくさんあるので、そう思うことが出来ないという点で私はやや西川美和監督の作品は苦手なのかもしれないと、「永い言い訳」で感じた感情が蘇ったのも事実。
