叡福寺清子

ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像の叡福寺清子のレビュー・感想・評価

3.2
かつては,家族を犠牲にした上で派手な商売を広げていたかもしれませんが,今や閑古鳥の方が多く来客する画廊のオラヴィさん.とあるオークション前の展示会である肖像画を見て,ビビっとくるものがあり,何としても手に入れたいを強く願います.時同じくして,孫のオットー君の課題である職業訓練実習の引受先を押し付けられます.果たしてオラヴィさんは肖像画を入手できるのか,そしてその肖像画は誰の作品だったのか・・・

作者は作品の半ばで判明いたします.ですが,恥ずかしながらこの呼延灼は,美術に関する知識が皆無.どれだけ凄い人なのかちんぷんかんぷん五時六分でありました.ググってみますと,なんか著名な方なんですね.あぁ美術の知識皆無と言いましたが,クリムゾンさんとか,水龍敬さんとか,水無月十三さんの絵ならすぐわかりますよ,わたくし.
なお,落札額1万ユーロは約158万円.高いのか安いのか,なんとも言えません.その作者調査に才能を発揮したのが,孫のオットー君.転売行為で小遣い稼ぎをするくらいに商才がございました.転売が商才なのかは,今回は不問にします.最初はウザがっていたオラヴィさんですが,なんやかんやと頼りにしたり,世話を焼いたりするようになります.その延長で疎遠だった娘,つまりオットー君の母親と再開を果たします.家族団欒が戻ってくるかと思った矢先,落札金額が足りなかったオラヴィさんは娘さんに無心.当然娘さんは拒否.あげくオットー君に進学資金を借りてしまい,家族の仲は大きな亀裂が入ります.人のよさそうなオラヴィさんだけに,この行為には引きました.そこまでしても肖像画が欲しかったのは,商いへの情熱なのか絵画に対する固執だったのか.まぁすぐに常連さんに連絡いれましたから後者なんでしょうけど.

面白かったのは,オラヴィさんには絵画から色んな事を学び取れる感受性が備わっていたのに,最も大切にしなきゃいけなかった家族への配慮,というか愛情が損なわれていたことでした.時に家族愛とは無償の愛と解釈されますが,宗教画であることから自身の署名をしなかった,つまり誇示より謙遜を選んだ絵画に強く惹かれるのは,なんともいい皮肉でございました.
いい感じといえば,オラヴィさんが亡くなる際の演出.私は好きですよ.