amu

花束みたいな恋をしたのamuのネタバレレビュー・内容・結末

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

坂元裕二だし、なかなか無料配信されないし、主演のふたりが二人だし。ということでかなり期待値を高く見積っていた。はじめは(期待していたよりは)物足りなさのようなものを感じたが、あのシーン好きだったなとか、考察レビューにあった二人の洋服の色の話を読んだりしてまた観たくなり、また観た。お気に入りのやりとりやシーンが割とあって気がついたら繰り返し再生してた。この作品、結構好きかもしれないと思った。そして改めて菅田将暉さんの演技好きだなとも思って、菅田将暉さんの出演作品の中でも特に思い入れのある「そこのみにて光輝く」も久しぶりに観たりもした。

取り巻く環境が変わることで恋人と別れてしまうということがよくある話なのかはさておき、多分に漏れず自分もその経験がある。どちらかが、またはどちらもがモラトリアム期から卒業していくことでお互いのこれまで大事にしていたことより今が大事になっていき、生活リズムが変わり、習慣が変わり、それまで好きだったものへの興味が薄くなっていくことを実感した頃、別々の道を行くことを選び出す。特に大学生だった時間から就職をして社会に出て、今まで関わることのなかった年代の人や組織、環境に置かれることで人間は変わっていくのだろう。これほどまでに始まることが終わりの始まりと思える出来事は無いのではないかと思えたりもする。そんなことは無いと抗いたい気持ちとは裏腹にこの終わりを経験した人は、思い出すとぎゅっとなるこの心のカタチを知っている人だと思う。

学生時代、バイトがある日以外は学校でも学校外でもほとんどの時間を一緒に過ごしていた彼と私もお互い就活の時期を過ごし、学校を卒業し、就職し、会える時間は学生時代から極端に減った。お金はないけど時間だけはあって、とにかくいつも一緒だった人と今度はお金は稼げるようになったけれど会う時間が無くなり自分たちを取り巻く環境も関わる人間も変わっていった。お互いの友人だってみんな知った顔だった学生時代から、相手がいま一番仲良くしている人など知らなくなる。とはいえ私の場合は就職してしばらくはお互いの一人暮らしの家に行き来し、お互い会社の寮(という名の普通のアパート、マンション)だったこともあって、相手の今の仲間を紹介し合って顔なじみだった。それでも、一年近く経とうとした頃私は今の環境が大事だといった類いの理由である日別れを告げられた。死にたくなるくらいつらくて悲しい冬の朝だった。

しばらくして彼の同期の男性と街でばったり会った時、少し立ち話をして、現在彼が同期の女の子と付き合っているというのを知ったことがあった。だけどその同期の男性は、私といた時の彼の方が好きだったし私たち二人のことがとても好きだったと言った。彼の同期というその男性友人の部屋でその人の彼女と4人でお鍋を囲んだりしたことを懐かしく思った。同期の女の子と付き合っていると聞いた時、あ、きっとあの子だなと思う女の子がいた。まだ就職したばかりの春の頃に彼の部屋で過ごしていた際インターホンが鳴って女の子が二人ドアの前に立ち彼を訪ねて来たことがあった。彼は半分イライラした様子で今彼女が来てるから、と言っていた。その様子を彼の声だけで察した私はきっとその女の子のどちらかが彼を好きなんだろうと思った。そしてその女の子と今は付き合っているのかもしれないなと思った。だから何だということでは無いのだけど、何となくそう思った。そしてそれを思った時、私は彼とは学生時代に出会いたくなかったなと思った。

人間的にも社会的にも未熟な学生時代に出会って一緒に過ごしても、それらはその後に訪れる人生の本番みたいな部分への序章のようなもので、社会に出てからも変わらずに歩み続けるのは難しいように思う。もちろんそうでない人達もたくさんいると思うし、お互いの環境が好きなことから生きることに変わっても二人の関係性が変わらない人たちを羨ましくも思う。

この作品を通じて思いがけず社会に出てすぐの頃の自分自身を思い出して話が大いに脱線してしまいましたが、そう考えると改めてこの作品はとてもリアルだなと思う。出会いとか、付き合うことになった時とか、付き合っている時とか、幸せだったけど、どう考えてもそのままずっと一緒にいても上手くいかなかっただろうなと思えるから。だからこの作品の二人のように「好きだけど別れる」をちゃんと二人で選択したのって実は素晴らしいことなのかもしれない。成長物語として。

菅田将暉さんと有村架純さん。既視感があって思い出したのだけど、「何者」でも恋人同士だった。元、だけど。そしてあの作品も就活がテーマだった。でも何となくどちらの作品も二人はお似合いとまで思えないのは何でなのかな。

それから「ピースオブケイク」や「愛がなんだ」、「明け方の若者たち」と同じ見せ方だなあと思ったのが、幸せの絶頂時って二人でお風呂に入るシーンだなという点。どの作品もその後から終わりへの始まりが始まっていくのでとても切ない。幸せの絶頂自体が切なさを伴っているとも言える。

なんやかんや好きだったので、シナリオ本も購入してしまいそうな勢い。やっぱり私はリアリティのある人間模様映画が好きだ。
amu

amu