鰻重

ミッドナイトスワンの鰻重のネタバレレビュー・内容・結末

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

2021/04/07 劇場にて。

上映時期を逃して諦めていたが、日本アカデミー賞効果で延長?再開?したようで滑り込み。

故郷には真実を告げぬまま、女性の姿で東京に暮らすMTFのナギサ(草彅剛)。虐待を疑われる実母(水川あさみ)との一時的な隔離のため、親戚の一果(服部樹咲)を渋々預かることになる。子供は嫌い!と突き放すナギサと、負けず劣らず頑固で心を閉ざしたままの一果。ある日少しの興味から一果はバレエに出会い、友達に出会い、師に出会い、そしてたくさんの愛と理不尽に出会い、遠い空へ羽ばたいてゆく。

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観劇後はなんともつかずどうしようもなく辛かった。時折訪れるファンタジックな演出が、美しさ故に夢を見ているようで、地に足がつかない怖さがあった。

一果がバレエに出会い、その姿を守りたいと思うナギサの愛は不器用に一途だ。けれどそれを守り通すには、ナギサ自身脆くていっぱいいっぱいで、親になったことのない私は「子」の目線で胸が切なくなった。

ナギサが伸ばしていた髪を切り、肉体労働の仕事を始めたシーンも印象的だった。
髪を短くしたナギサの笑顔と、それに憤りながらも伝えられない一果のもどかしさ、その不器用さをそれでもいいと身体ごと包み込む姿は美しくもあり、またやはり辛くもあった。
男性として外見だけでなく、捨てたはずの名前を使い、ホモソーシャルな乱暴さの中で懸命に働いている姿は何かに擬態しなければ社会につながれない現実を炙り出しているようにも感じられた。

辛さで言えば、この苦労を経て出場したコンクールで、舞台上で動けなくなった一果を実母のサオリが抱きしめる場面が一番苦しかった。
なりふり構わず心を尽くしても、本物にはなれない。社会での擬態よりももっと残酷に、ここだけはとナギサを支えていた愛に、「本物にはなれない」を突きつけた瞬間だった。
毎週のようにホルモン注射を打っても女性にはならないし、全てを犠牲に支え続けても、母にはなれない。きっとそうではないけれど、そう思わせるには充分にショックなシーンだった。


中盤描きたいところが多すぎて視点が散っていたり、演出過多なきらいもあるが、俳優の演技が存分に生かされていたと思う。
一果の重要なファクターであるバレエも、素人目にもそのレベルが相当のものであろうことが伝わり、ストーリーの立体感をぐっと増していた。そして何より、鑑賞後このどうしようもない気持ちを引き摺っているのが、今作の見応えを示す最大の証拠だと思う。

なかなかまとまらないので一旦この辺りで。
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