鰻重

ラストナイト・イン・ソーホーの鰻重のネタバレレビュー・内容・結末

3.3

このレビューはネタバレを含みます

2021/11/29 試写会にて。

見終わったあとなんとも言えない気分になったのですが、シークレットゲストの登場で詳細を半分忘れてしまいました…笑
(長濱ねるさん、欅坂卒業イベント以来初めて生でお見かけしたのですっかり興奮してしまいました。)


さて本題の本編ですが、デザイナーを目指してロンドンにやってきたエロイーズ(=エリー/トーマシン・マッケンジー)が、学生寮に馴染めず間借りした屋根裏部屋で眠りにつくと、憧れの60年代にタイムリープ!歌手を夢見るサンディ(=アレクサンドラ/アニャ・テイラー=ジョイ)に身を重ねて華やかな空気を楽しむものの、不穏な空気に現実と虚構が入り交じるーー眩しいスポットライトを浴びる者あれば、その陰に必ず色濃く暗い闇が広がっている。
と言った感じでしょうか。。。

直近で見た作品で言うと、プロミシングヤングウーマン風味のダニエル…?



まず思い出すのは、全体を通してキーになっていた「鏡」の演出。
初めてタイムリープしてエロイーズとサンディがシンクロする場面では、鏡に映り込む2人が目まぐるしく入れ替わり、現実離れした「夢」らしさが強調されていた。憧れの60年代に胸躍らせるエロイーズの気持ちそのままの浮遊感のある映像に仕上がっていた。

中盤では、2人を隔てる壁としての鏡が印象的だった。
夜な夜な男達の欲望に心身をすり減らすサンディ。共有される苦しみに耐えられなくなったエロイーズは、逃げ出すのではなく、間にある鏡を割ってサンディを抱きしめる。これはサンディを救う目的と、自分の心を守る行動がイコールになり、2人の交錯がより色濃くなった瞬間のように感じられた。

また、終盤のポイントである殺害シーンでは、サンディと揉み合うジャックの「ナイフ」が鏡の役割を果たす。のちに明かされる真相から、反転した世界が現実そのままではない、揺らぎのある空間であることがより強調されたようだった。


この映画で一番親切だなと思うのは、作中のミスリードや伏線がかなりわかりやすく回収・明示される点だと思う。
(サンディの行方、真犯人ジャックの正体などは映画の中盤にはピンときてしまう。)
虚構のメタファーやオマージュを考察する余白を持たせつつ、華麗な60年代カルチャー映画として至極ライトにも味わうことができるからだ。

しかしなんだか…それだけでは自分にはどうしても飲み込めないのが、ラストで「亡霊達」が助けを求めるシーン。

それまで男達は、夢を踏みにじり、肉体を弄び…サンディの目を通して徹底的に女性を搾取する存在として描かれていた。
屋根裏部屋でサンディは毎晩「死んで」いた。夢をビジネスにすり替えられ、搾取され、それが人間の心を殺していくことを明示していた。
それが最後になって「助けて」…?あくまで合法売春に興じただけだということなのだろうか?「サンディを」救ってくれという贖罪であればいいのだが、それならどうしてエロイーズを追い回したのか…。
亡霊達にも救済があるように見えてしまい、それまで描いてきた芯の部分が大きくブレてしまったように感じられた。

撮影手法、演出などテクニカルな部分で興味深くはあったが、ストーリーはいまいちハマらずだったのでこの評価で。

あとあの……ジョンは……。
とってもいい子で観客としても精神安定剤としてほっとさせてくれたのだけど……都合が良すぎませんか……?
若者が惹かれ合うのに時間も理由もさして要らないのはよくわかるけど…理解力ありすぎピンチに駆けつけすぎでは…?叔母の魔女の血のせい……?
フィクションには野暮ですかね。
鰻重

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