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ミッドナイトスワンのAQUAのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
4.0
凱旋上映により映画館で鑑賞。

ネタバレが多々あります。





場末のキャバクラで酔い潰れている母親を迎えに行く一果(いちか)、家路に向かう際中も「誰の為に働いてると思ってんだ!」と娘に管を巻く、DVの典型のように寝ながら一果に救いを求める、一果は掃除の行き届いてない部屋の片隅で自分の腕を噛む。
冒頭のこのシーンで母親の育児放棄、DV、社会性のなさやプロとしての自覚のなさを表現し、一果の母親の重圧による自傷癖と心の病を映し出していると思う、
広島から東京の親戚である凪沙に一時的に預けられる事になるが凪沙は子供が嫌いでトランスジェンダーであった。
元々預かる事に決めたのはお金を貰えるからであって凪沙は性転換手術の為にお金を貯めていたからであった、なので一果に対しては関心を示さなかった、
一果は学校でも誰にも心を開く事はなかったがバレエに対しては興味を示し自主的な教室の体験学習を受ける、そこで同じ学校のりんにお古のバレエシューズを貰い仲良くなる。
りんのアドバイスでバレエの為に秋葉原でバイトをするが問題を起こしてしまう。

道端で叱られる子供、母親は先に行ってしまうが子供は後を追いかけ母親と手を繋ぎ去って行く、その後ろ姿をみて凪沙が初めて子供というものを意識し始める。

ショーの際中に野次を飛ばした客と喧嘩になるが一果が舞台にあがりその場にいる皆が見惚れるシーンがある、そこで見上げる凪沙の眼は母性の芽生えではなく明らかに憧れの瞳である、それは純粋に綺麗なバレエの表現力に見惚れた点とどうあがいても超えられることができない女性という性に対しての憧れだと思う、このエピソード以降凪沙の一果に対するバレエの執着が始まる。

それは一果の為にといいつつも越えられない女性という性を体現している一果に自分を投影したいからに過ぎない、なのでバレエに通わせる為、お金を稼ぐための就職として髪を切った凪沙の姿を見た一果は反抗の態度を取る、それは過去に一果の為といいつつ自分の為に働く母親と同じく一果にとっては重圧でしかない、だから「誰が頼んだ」と反発をする、荒ぶる一果を優しく抱きしめる凪沙、ここで凪沙の内面の中で女性としての母性が芽生え始めたのだと思う、そして母親として娘を愛する気持ちが芽生え始めた事で自分自身を女性として肯定できたのかもしれない。

りんは足の怪我によりバレエができなくなり、逆に綺麗にバレエも上達する一果に対して憧れと羨望を抱く、しかしバレエが出来なくなったことで母親の期待に応えられず自分の居場所を失ってしまい絶望のあまりコンクールの際中に飛び降り自殺をしてしまう、
映画の中では描かれていないがおそらく最終演技の時には一果にも訃報が届いていたのであろう一果は演技をすることができず立ちすくむ、そこへ舞台へ駆けつけ抱きしめていたのは一果の母だった、その姿を見て凪沙は会場を去って行く事に
一果の元へ駆けつけることが出来なかった自分、必要としているのは母親だと認識をした凪沙はモロッコで性転換手術を受ける。

結果としてこの手術が死期を近づけてしまうのだが高校を卒業した一果は凪沙に奨学金で海外にバレエを習いに行く事を告げに東京に向かうがそこには手術によって動くこともままならない凪沙の姿があった。

凪沙は一果に海がみたいとお願いをする、
それは小学生の時に何故自分は男用の海パンを着なければならないのかと性を初めて意識した出来事があったからであった、
そこで砂浜で舞う一果のバレエの姿を見つつ息を引き取ってしまう。
一果はバレエを踊った後海の中へ入って行く、それは凪沙が初めて自分の性と意識の不一致を自覚した話を聞いたからこそ、凪沙の代わりに海へ入る事によって小学生の凪沙の夢を叶えてあげるかのように。

終始凪沙の越えられない線に対しての憧れと絶望を草なぎ剛さんは見事に演じていたと思います、りんも一果にバイバイと電話をしてフラグがたった時から結末は予想がつくとはいえショックでした。
救いなのは一果の中で凪沙が生きている、そう思わせるほど海外に渡った一果の後ろ姿は凪沙にそっくりだった事ですね。

映画.com参照
草なぎ剛演じるトランスジェンダーの主人公と親の愛情を知らない少女の擬似親子的な愛の姿を描いた、「下衆の愛」の内田英治監督オリジナル脚本によるドラマ。故郷を離れ、新宿のニューハーフショークラブのステージに立つ、トランスジェンダーの凪沙。ある日、凪沙は養育費目当てで、少女・一果を預かることになる。常に社会の片隅に追いやられてきた凪沙、実の親の育児放棄によって孤独の中で生きてきた一果。そんな2人にかつてなかった感情が芽生え始める。草なぎが主人公・凪沙役を、オーディションで抜擢された新人の服部樹咲が一果役を演じるほか、水川あさみ、真飛聖、田口トモロヲらが共演。第44回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞し、草なぎも最優秀主演男優賞を受賞した。

ミッドナイトスワン
2020/日本
配給:キノフィルムズ
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