うるぐす

ミッドナイトスワンのうるぐすのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
4.7
誇らしい邦画。そう言っていいのではないか。

なんといっても、草彅剛の演技の素晴らしさ。演技が素晴らしいという表現よりも、草彅剛が消えている、という表現が適切かもしれない。主人公・凪沙がそこにいるだけなのだ。
劇中、凪沙が髪を切って、言うなれば普段我々が知っている草彅剛の姿で現れる。ここが本当に痺れる。完全に凪沙がそこにはいて、草彅剛の表現力と内田監督の演出力のなせる技。

「LGBTって流行ってるもんね。」と男性が、トランスジェンダーに苦しむ凪沙に声をかける。無知による愚かさ恥ずかしさを映し出すシーン。

でも、一方でその凪沙たちも、母親から虐待された一果を、
「そんなのニュースだけの話かと思った」と話したりする。


誰しも、自分ごとではないことには自分ごとにはなれない。
だからこそ想像するしかない。

凪沙も一果も、この世界の片隅で、「ひとり」で強く生きる。
そのそれぞれの「ひとり」が結ばれて、「ふたり」になろうとする。
その懸命で多大なる愛の物語は、とてつもなく美しい。そして、すごく不安定。

それは凪沙の歩き方に現れていて、
美しい髪にサングラス、そしてトレンチコートを着こなしながら、赤いヒールを履く。とても美しいのに、凪沙の歩き方はどこか不安定で、姿勢も頼りない。
バレエを始めたばかりの一果もまた不安定で、そんなふたりが支え合いながら歩くシーンを以ってして家族となる。

この映画においての凪沙と一果。それぞれの最大の決断がどのようにして運命を変えていったのか。

是非みて欲しいです。

あと、個人的に、
一果の通うバレエ教室の友達の凛って子がいて、大金持ちで、すごく満たされて生きているように見えてこの子もまたある種の孤独なんだけど、この子にまつわるシーンがとにかく凄かった。
キスシーンはここ数年で見た映画の中で一番美しかったし、バレエのシーンの孤独の演出と、その後のとんでもない展開。
あいみょんの「生きていたんだよな」の
「鳥になって雲を掴んで 風になって遥遠くへ
希望を抱いて飛んだ」

このキャラクターがいることがさらにこの映画をいいものにしてました。


あともっと言うと、この映画すべてのシーン、全カットに赤色が用いられてたんじゃないかってくらいに執拗なまでに赤色が散りばめられていたのが印象的でした。

これが邦画であることは、すごく誇らしいと思います。海外の映画祭に必ず持っていって欲しい。素晴らしい評価を得て帰ってくると思いますから。
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