うるぐす

茶飲友達のうるぐすのレビュー・感想・評価

茶飲友達(2022年製作の映画)
4.9
ラストシーンで突き刺してくる作品がとても好きなので、その点においてこの映画は完璧でした。

実際の出来事(この映画を観たあとで“事件”と表現したくない)から着想を得ていて、
高齢者同士の売春を斡旋する若者たちと、コールガールとして働く女性、そして利用客となる高齢男性の物語。

現代社会において重要だけどユニークなこのテーマがまず素晴らしくよくて、都合のいいように高齢者を記号的な役割から逸脱させて、リアルな存在になっている。そりゃそう。嘘つくし、お金欲しいし、性欲だってある。普通の映画だと、運営している若者たちと対比的に映されるだろうけど本質的にそこまでの差はないよな、と改めて当たり前のことに気付かされる。その見事さ。現代で個人個人で抱えているものは異なるし、共感し合えない所もある。でも「誰だって、ひとりは寂しい。」

本当の家族と折り合いがつかないからこそ、自分たちで家族“のようなもの“を形成し、そこで育む日常の美しさ。家、という生活の歴史を積み重ねている空間の愛おしさ。
こういう映画の終わりはあらかじめ分かった上で見るからこそ、「もうこのまま終わってくれたらいいのに」と何度も願ったりして、その終わり方は想像を超えてきて、そこもまた素晴らしすぎた。

あと、前半特にビジネスの見せ方含めてスタートアップ系の映画のワクワク感もありそれもかなり好ましかった。これもうちょっとグレーの度合いを白に寄せたら本当にセーフティネットになりうるんじゃないのか。これ俺が思いついたことにしたかったってなるやつ。

おにぎりを万引きしようとして捕まりそうになるところを救われたことをきっかけにコールガールとして働くことになるメインのおばあさんがいて、その人が万引きしようとしたのが、半額のシールが貼られたおにぎりで、それは罪の意識を少しでも抑える為だったのかな、と。その半額のおにぎりに最後すごい絶望させられたりもするわけで、人間の抱えるものの深さを教えられた感じもする。

なんといってもラストシーンがすばらしかった。あのラストの表現は表層的な社会のルールへの警鐘にもなりながらそれをサラッとブラックユーモア的にと描いていて美しさを感じました。

社会的な要素もあるけど、物語としてすごいよくできていてエンタメに素晴らしい形で昇華されてる。すごく好きな映画に出会えました。
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