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由宇子の天秤のギルドのレビュー・感想・評価

由宇子の天秤(2020年製作の映画)
4.8
【緊迫感ある印象操作の因果応報】
3年前に起きた女子高生いじめ自殺事件の真相を追うドキュメンタリーディレクターを描いた疑似ドキュメンタリー映画。

多くの人が話題にするのも納得する映画の根底を覆す怪作でした。
想像を遥かに上回る見ごたえある作品で面白かったです!

表層的には事件の追求するディレクターと加害者家族の終わりなき糾弾を捉えた作品で、社会派な要素の強い作品ではある。
しかし、本作が素晴らしいのはそういう要素を基に
①人が感じる想い・印象はドキュメンタリー映画のように変わる不安定
②第3者が捉える人の事実はどこまで追求しても底なしで見えない普遍性
を強調する所にあると思います。

ドキュメンタリー映画は題材を基に、情報収集・インタビュー・実験を行って整理して一つの主題を掲示するジャンルである。
そうすると視聴者に伝えるために
・作為的に情報のトリミングが大なり小なりされる
・インタビューが事実と考える
という性質を持つ。
様々な情報を取捨選択する事は裏を返せば、作り手の都合で伝える内容も印象も変わる。
本作はこの工程を逆手に取ったサスペンス要素が独特で、見聞きした情報で第一印象が変わるように…話しした実体験を真実と考えるように「①人が感じる想い・印象はドキュメンタリー映画のように変わる不安定」の暗喩を与える所が見応えあったかな。

しかも、途中の疑似家族のような団らんに塾での生徒のやり取りがリアルだからこそ、本当の日常生活の一部を切り取った質感が「新たな事実を知った瞬間の当事者の知られざる一面に辟易する」様を強くしてると感じました…

そんな中で由宇子は「他人に言えない事情をそのまま吐露して人生が崩壊する社会の残酷さに抗う姿・その姿が正義に反する辛さ」の2つの考えに天秤の様に揺れ動く姿を見せていく。
この姿が現代的で何が正しいか?を考えさせられる一方で、由宇子を見つける観客はチェーホフの銃の如く何度も目に見える印象が変わる姿を目撃している。
これが人の側面が時々に変わる様を描くだけでなく、報道の見える面と見えない面がある様をダブルミーニングで表現するところが素晴らしかったです。

人の想い・印象は報道によって操作されていくドキュメンタリー要素、情報を取捨選択した人間に因果応報の如く逆に印象を操作されていくフィクション要素が徐々に交じる…
その姿が社会派作品なのかサスペンス作品なのか分からなくなる不気味さが傑作だと感じました!
オススメです!
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