サマセット7

アントマン&ワスプ:クアントマニアのサマセット7のレビュー・感想・評価

3.6
アントマンシリーズ3作目。MCUの31番目の劇場用映画作品。
監督は前作「アントマン&ワスプ」に続き「チアーズ!」「イエスマン"YES"は人生のパスワード」のペイトン・リード。
主演はアントマンシリーズ通じて「クルーレス」「ゴーストバスターズ/アフターライフ」のポール・ラッド。

[あらすじ]
サノスとの戦いを経て有名人となった、元コソ泥のアントマンことスコット・ラング(ポール・ラッド)であったが、「指パッチン」による空白期間中に難しい年頃になった一人娘のキャシー(キャスリン・ニュートン)との関係性は模索中。
そんな中、キャシーの量子空間の探索実験中の異変により、ワスプこと恋人ホープ(エヴァンジェリン・リリー)、ホープの父ハンク(マイケル・ダグラス)、ホープの母ジャネット(ミシェル・ファイファー)、キャシーとスコットの5人は、量子空間に飲み込まれてしまう。
時空間が通常世界と異なる量子世界の中で、離れ離れになった5人は、合流と帰還を目指して動き出すが、量子世界には恐るべき敵が潜んでおり…。

[情報]
マーベルスタジオが手がける前代未聞のアメコミヒーロー大河シリーズ、マーベル・シネマティック・ユニバースの31番目の劇場用作品。

MCUはフェーズ1から始まり、今作はフェーズ5最初の作品と位置付けられる。
フェーズ1から3までで完結したサノスをラスボスとする「インフィニティサーガ」に続き、フェーズ4からは「マルチバースサーガ」が展開。
マーベルスタジオは、同サーガをフェーズ4からフェーズ6までで描くと宣言している。

昨年で終了したフェーズ4は、劇場用作品7作品、ドラマシリーズ8本とアニメシリーズや短編作品など、恐るべき物量を誇ったものの、マルチバース概念の紹介、ヒーローの世代交代と新ヒーローの大量導入が中心で、「MCUを貫く世界の危機」の正体は具体的に示されてはいなかった。
また、作品の質にもバラツキがあり、「アベンジャーズ/エンドゲーム」でエンタメ界の隆盛を極めたMCUも迷走期に入った、との評価も聞こえる。
そのため、フェーズ5始まりの今作には、仕切り直しとして大きな期待が寄せられていた。

特に今作には、フェーズ6までのMCU全体のメインヴィランと目される、原作コミックの大物ヴィラン、征服者カーン(ジョナサン・メイヤーズ)の登場が事前にアナウンスされており、注目を集めた。
なお、ジョナサン・メイヤーズは、すでにドラマシリーズ「ロキ」にてMCUデビューを果たしている。

現在公開3日目で興収は不明。
海外の評価サイトを見るに、一般観衆はそれなりに楽しんでいる一方で、批評家の評価は分かれているようである。

今作は、物語のほとんどが量子世界で進み、未知の世界でのアドベンチャー的なジャンル要素が大きい。
その結果、「アントマン」「アントマン&ワスプ」で見られたような、地に足のついた施設潜入ものや宝物争奪ものといったジャンル要素は薄まっている。
また、前2作で印象に残る活躍をしたスコットのコソ泥仲間たちも登場しない。

[見どころ]
マーベルコミックを代表するヴィラン、征服者カーンの圧倒的な力!!
相変わらずのスコット、ホープ、ハンクら家族にキャシーを加えた家族のワチャワチャしたコミカルな会話劇!
量子世界の、ツッコミどころの多い世界観!!
語るべき要素多すぎの中、一応ちゃんとしてテーマ性もあり!
SFロジックは、ツッコミ入れながら流すのが吉か!!!

[感想]
観ている間は2時間飽きることなく楽しんだ!
が、ツッコミどころも多数!!
全体としては微妙!とはいえ、MCUを見続けるなら、非常に重要な作品!!

アントマンは、偉大な志も、神がかったスーパーパワーもない、ふつうの中年男で、何なら社会の脱落者。
それが、娘や家族のために頑張って、目指せ、一発逆転!というところに面白みがあった。
しかし、今作では、すでに一定の成功と安定した家族を手に入れ、もはや強いモチベーションはない。
あるのは、その場その場の危機を乗り越えて、家族と共に、早く安全なホームに帰ることのみ、だ。
シリーズ3作目ともなると、ドラマを作るのは難しい。

これまで、宇宙規模に巨大化したMCUにあって、アントマンシリーズは町の小冒険を描き、新鮮さを出してきたが、今作では、ガッツリ多元宇宙、マルチバース世界の根幹に関わる敵が相手。
その結果、これまでのシリーズ独自の魅力はかなり失われている。

一方新たに描かれる量子世界は魅力的かと言うと、個人的にさほど面白みは感じなかった。
既存のスペオペもののSF作品の世界観の域を出ていないのではないか。
むしろ、SF的なギミックや展開に対する違和感が積み重なり、ノイズとなる。
なぜ、この人たちはこの背格好をしているのだろうか?
アントマンの大きさの変化に制限があるのはなぜ?
この人は、いつのまに余人の知らない事情を把握したのか?
なぜ?なぜ?なぜ?と考え出すとキリがない。

今作の肝、征服者カーンについて、演じるジョナサン・メイヤーズの演技は迫力があってよかった。
たしかに、ヴィランとして圧倒的な力を見せてくれる。
しかし、フェーズ6までのメインヴィランとしては、能力の説明不足もあって物足りない印象を受けた。
こういう敵の強さ描写は、日本のアニメや漫画の方が上手いのではないか。
少なくとも今のところ、インフィニティウォーのサノスやソー/ラグナロクの女神ヘラほどの絶望感は感じない。
まだまだこれから、ということなのか…?

もう1人のヴィラン、モードックは…。
ネタバレになるので言及は控えよう。

と色々書いたが、鑑賞中に途中で退屈することは全然なかった。
テンポの良い語り口、コミカルなセリフの応酬、量子世界の映像、適度なアクション、今後のMCUを占う重要な展開と、一定の楽しみはある。

おそらく、描くべき要素が多すぎたのだろう。
大河シリーズの宿命か。
いずれにせよ、まだMCUを追うつもりなら、今作を見ない手はない。

[テーマ考]
今作のテーマは、小さきものでも世界に影響を与え得る、ということか。
これはアントマンシリーズ全編に通じるテーマでもある。

序盤に触れられる、スコットの自己啓発本風自伝のギャグ描写が、後になって伏線として効いてくる構成は、とても良い。

[まとめ]
今後のMCUに大きく関わる布石が打たれた、フェーズ5最初の作品。

征服者カーンについては、ディズニープラスで配信中のドラマシリーズ「ロキ」シーズン1の最終話において重要な関連描写がある。
今作を十分理解しようと思ったら、視聴は必須だろう。
つまり、ディズニープラス加入必須!!

DCはDCで、新しいプロダクションではドラマシリーズとの連携が強化されるらしく、どこがドラマシリーズの配信権を獲得するかは注目を要する。
独占配信のピースメイカー同様U-NEXTだとすると、配信サービスの取捨選択が一層悩ましくなる。