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永遠が通り過ぎていくの8637のレビュー・感想・評価

永遠が通り過ぎていく(2022年製作の映画)
3.2
一番感受性の変わりがちな今に観られたのは正解だったが、舞台挨拶で真意を語られないと理解できない映画ではあったんだよな...ちょうど直前に観ていたからか、「流浪の月」の「更紗には詩はまだ分からないよ」という言葉を思い出した。私的だけど素敵、しかし詩的。長久允監督のような愚直なモノローグを超越して抽象的だが、それを狙っている。監督は「分からないようなものがあってもいい」と言っていたが、解られないままでは負の印象としてしか見られない。いつかその全ての言葉を理解する日が来るなら死なない。

この映画は、戸田真琴監督の史実を"悲しみが直接伝わるように紡ぎ直したもの"であるという。それを言われれば3作にリンクする部分も何となく分かる。そして驚くべき事に、文筆家の肩書きが目立つ彼女の第一言語は映像だと言う。
「アリアとマリア」は演技や言葉の理解しきれない部分を利用した映画だと思う。女性同士なのに、男女が恋愛関係に陥りそうなあの危なっかしさを感じた。
「Blue Through」では主人公の異常な痛さが正当化されて映っているが、とある介入によって現実に引き戻されるという解説を聞いて腑に落ちた。
作品の満足度としては、戸田監督自身の赤裸々が詰まった大森靖子の楽曲にシネスコの映像美が合った「M」が最高。あの二人の感情ならなんだか分かる気がした。

サインを貰えるという店員さんの念押しと長久允監督との対談に惹かれ2000円のパンフを買った。何だかんだで分からない事だらけだが、監督に唯一話せた「長久監督のファンです」への「じゃあ、これは聖書ですよ」という返答を信じていようと思う。
帰り道、この映画を観た人かは分からないけど、彼氏に媚びるように「今のこの時間はもう戻って来ないよ」と喋りかける女性を見かけた。彼女の史実とは。それを愛せるか。
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