TAK44マグナム

ケルベロス 紅の狼のTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

ケルベロス 紅の狼(2018年製作の映画)
4.1
あなたならどうする?


ダークヒーローが国民を苦しめる悪党どもを次から次へと粛清してゆくブラジル産の快作。
武装した主人公のビジュアルの、目が(なぜかは分からないが)赤く光るガスマスクが1番の特徴であることから、全然関係ないのに邦題が「ケルベロス」って、それは押井守です(苦笑)
本作には首都警もプロテクトギアも出てきませんし、残念ながら千葉繁も出ていません!


腐敗政治が蔓延るブラジル。
勝ち組である政治家たちや財界の長たちは自分たちの利権のみを求め、貧しい者たちは虐げられる毎日であった。
巨額の横領疑惑により武装警察に逮捕された知事であったが、大統領と繋がりを持つ黒幕の手で不起訴になってしまう。
人一倍正義感の強い警官ミゲルは憤るが、一人娘を何者かに殺され、深い絶望に苛まされる。
まるで魂が抜けたように空虚な日々を過ごすミゲル。
ある夜、知事を糾弾するデモに遭遇したミゲルは、持ち前の正義感から思わず機動隊員に突っかかってしまうが多勢に無勢。
機動隊の催涙ガスがミゲルごとデモ隊を襲う。
ミゲルは咄嗟に落ちていたガスマスクをかぶると機動隊員を倒して建物内に侵入し、怒りのままに知事を殴り殺してしまうのであった。
高揚感をおぼえたミゲルは決意する。
「俺が世の中を変えてやる」と。
この瞬間、のさばる悪を裁く「啓発者」が誕生したのであった。
だがそれは、ミゲルの、そして国家の運命までも大きく変えてしまう戦いに発展してゆく。
はたしてそれは「正義」なのか「復讐」なのか・・・


いわゆるビジランテ(自警団)ヒーローものですが、敵はチンケなギャングなどではなく巨大な国家権力。
しかも剰え、たった独りで圧倒するのです。
最早そのあたりはファンタジーの域なのですが、元々はコミックが原作とのことでさもありなん。

ミゲルはガスマスクに黒いスーツ、そして大量の銃火器で武装して、夜な夜な腐敗した政治家たちを暗殺してまわります。
近接戦闘は当たり前、遠距離からの狙撃もこなす万能ぶりが格好いい。
卓越した身体能力、鍛え抜かれた肉体、訓練された戦闘スキルを駆使して、警護のSPぐらいなら何人いようとお構いなしに「裁き」を執行してゆくのです。

抑圧されてきた世間はミゲルの自警行為に賛同、「啓発者」は瞬く間にヒーローとして語られ始めます。
しかし、その正体を知る者はただ1人。
彼がガスマスクを装着して機動隊員を蹴散らすのを目撃したハッカーのニナです。
コミックショップで働く彼女もまた、投獄されている母親に関する事情もあり、ハッキングスキルを使ってミゲルに協力するようになります。


娘の死に突き動かされるミゲルの行為はどこからどうみても私怨なのですけれど、彼が無類の正義漢であることが序盤で強調され、更に悪役の政治家たちが完璧なまでに胸糞悪いワルなので、過激ではあれど「正義のダークヒーローもの」としてとらえることができました。
実際、スカッとしましたよ。
何故なら、昨今の日本も同じように腐敗した政治が行われているようにしか思えないからです。
国民ファーストをうたいながら、苦しむ国民を無視するような政策ばかりが横行する現状を打破してくれるなら、こんなリベンジャーは大歓迎。
徹底的に浄化してほしい!
昔、少年チャンピオンで連載していた問題作の「アクメツ」のように・・・
でも実際には、命の選別は復讐のためとはいえタブーだし(SPが全員ワルというわけではなく職務を全うしているだけでしょうし)、せめて誤射した時ぐらいもっと悩んで欲しかった気もします。
その辺りをもう少しつっこんで語ってほしかったですが、空気が重たくなってしまいますし、娯楽映画としてのテンポを重視した結果なのかもしれませんね。

後半になると正体も割れ、ピンチの連続になりますが、それでもテンポ良く逆襲が始まるので中弛みも感じません。
本当に独りで国家転覆させるぐらいの勢いなので痛快であります。
「必殺」シリーズみたいな口上で始まり、「ブラックエンジェルズ」みたいなハッタリをかまして終わる。
最高じゃないですか!

適度なアクション濃度も気持ちよく、見せ場が多いのもGood。
日本でもこういうの作ってくれれば少しは溜飲が下がるのになと思わせる、侮れない復讐活劇でした。


レンタルDVD(ゲオ)にて