大人になるのは、難しい。
七月二十三日までの四十八時間の間に、
私は、一体何を見るだろう。
アラン・ルロワ。
彼はかつてパリの社交界で名を馳せた男。
闊達に語り、動き、輝き、愛し、愛された。
一夜の夢が覚めると、彼は魅惑の時代が終わった虚無に囚われる。
私たちは彼の事を知らない。
しかし、暫しこの物語に付き合えば見えてくる。
私達が喪ってしまったもの、
これから喪うであろうもの。
喧騒の時代は終わり、残るのは不毛の凍土。
愛は指の隙間から零れ落ち、
金は何も為してはくれない。
心は求めるものを求めない。
享楽の時代、アルコールに身を任せた彼は、
その虜になっていた。
治療のため、三十歳からの三年間を心療内科で過ごし、
今では完治したという。
しかし、彼の心の中の虚無は癒されない。
今も昔も、アルコールは彼を救うことは無い。
人は云う、彼の昔は輝いていたと。
今目前の彼はその時代の亡霊だと。
それは違う。
彼にとって真に肥沃な時期など一度も無かった。
青春の幻影という甘い果実酒の中で
多くの人はそこを通過するだけだ。
人生が最も輝く時期、
彼はそれが凡庸だったと認められない。
充分に大人になった今も、
心に虚無を抱きながら、まだ違う憧れを追う。
冷たい魂の彷徨。
人は生きる中で別れ続ける。
日々の起伏の中で、享楽の時代への郷愁を抱きながら。
ならば、別れる事を止めよう。
いっそこのまま時を止めよう。
エンドロールから始まる映画。
映画の終わりに残るのは虚無。
初めから約束された、虚無だ。
14歳の時に出逢ったこの映画。
観る度に私の心の中の印象を塗り替える。
人生に答えは無い。
その始まりから終わりまで。
今回が何度目かの鑑賞。
自分の誕生日が近づく度に、毎年ではないが思い出すように手に取る。
私もアランの歳を越えて、
最早、彼の最良の理解者にはなり得ない自分に、
少なからぬ虚無を感じた。