蟻子

星の子の蟻子のレビュー・感想・評価

星の子(2020年製作の映画)
3.6
『カルト宗教にハマる親とその娘』という少しキャッチーとすら思える設定ながら、野次馬的視点ではなく静かな眼差しで見守るような映画。

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気になってた作品がNetflixで上位になってたので視聴。原作は読んでません。

すごく劇的に何かが変わったりするわけではない、ここで終わるの!?とさえ思えるエンディングに少しモヤモヤしたものの、見て良かったと思える作品。芦田愛菜ちゃんの演技も見れて良かった。

この映画のスタンス的に、カルト的宗教にハマる親を否定したり叱責するわけではなく、茶化すわけでもなく、ただ思春期の娘の様子を静かな眼差しで見守る。色々な人が見られるように作られている映画なのかもしれない。

自分は宗教にハマる心理があまり理解できないので、学生時分に「あの子の家宗教入ってるんだって」と知ったらそのフィルターを通してしかその子を見れなくなりそう。一線引いてしまいそう。
本作の主人公ちひろには、なべちゃんという歯に衣着せず物を言ってくれる幼馴染がいるので、幸せなことだと思う。「怪しい宗教入ってるし、家がどんどん貧乏になってく」と当の本人に対して言えてしまうなべちゃん、強い。(しかもモデルさんのような長身美人)
しかし宗教にハマりすぎの両親と生活環境を笑って受け入れている子供(ちひろ)って、本当にどういう心境なのか。。。

怪しい宗教に入っていようと、どんどん貧乏になろうと、他人から見たら変質者に見える両親でも、ちひろにとっては優しい両親に変わりないのだろうな。
怪しい宗教と言っても、それによって友達が増えたりおいしい焼きそばを食べたり、楽しい思い出もたくさんあるんだろうな。縁のない人間からすると理解できないことなのだが、ちひろにとってはこれが日常なんだな…。

今まで私は「宗教やってる」って聞いただけでどこか自分と違う人間かのように感じてしまいがちでしたが、当たり前だけどその人たちも同じ人間なんだな…と。
特にこの家族の宗教への入り口、入信するきっかけは育児の悩みということで、子育て中である自分にはかなり共感できるところもありました。まぁあんなに丁寧に、悪く言えば神経質に育児してなかったけどね。



黒木華演じる昇子さんの台詞がどれも意味深すぎて、ちょっと理解するの難しかったです。というか今もよくわかってません。
「ちーちゃん、あなた、迷っているのね。」
「あなたが今ここにいるのは、自分の意思とは関係ないのよ…」
そうだね、確かにそう。でも昇子さんはどっちを伝えたいんだ?親が宗教入ってたら子供はその環境に抗えないってこと?抜け出せると思うなってこと…?うーん。



少し幼くも真っ直ぐな中学生らしい雰囲気を醸している芦田愛菜ちゃん、底なしの優しさを感じさせる一方でいかにも宗教に染まりやすそうな危うさも感じさせる母親を演じている原田知世さん、完璧なイケメンすぎるが故に徐々に裏の一面が露見しそうな教師役の岡田将生さん、一見ちょっと厳しそうだけど面倒見のいい伯父さんを演じている大友康平さん…などなど、役者さんたちの持っている雰囲気からどんなキャラクターなのかすごく伝わってくる。キャスティングが的確だなと思う!


この映画どうだった?と誰かに聞かれたら、なんて答えよう。
良作だった!とも、見て良かったからオススメ!とも、素直に言えないような。
「役者さんたちの演技良かったし、自分の知らない『宗教にハマる親を持つ』という境遇のリアル(多分)を知れたのは見て良かったと思ったよ」というところだろうか。。
もしくは「ウェルテルみたいな岡田将生がもう一度見たかったらオススメ」とかね。



*以下ラストシーンに関わるネタバレ含みます


終盤の研修合宿(だっけ?)では、ちひろがなかなか両親と会えない展開が続く。宗教にハマり続ける両親に対して疑問や嫌悪感を持ち始めたちひろの自立を表しているのかな、ここから親と離別していくのかな…?だとしたら応援したい…と思うのだが、両親と会えない間の不安感はかなりのもので、見ているこちらも漂う不穏な空気に凄く不安になる。ちひろにとって両親がまだまだ大きな存在だったことを思い知らされる。

その後両親と星を見に行くシーンで、目指す進学先の高校が家から遠いという会話があり、もしかしてこの親は我が子を自分の手元に置いておくことから、この宗教から解放しようとしているのか…?と思わせる。しかし結局そのような話にはならず、流れ星が見えたという両親に対してちひろの方が話を合わせているような展開に。そしてそのままエンドロール。
「流れ星=未来の希望」の暗示なのだとしたら、ちひろにはこの両親と一緒にいる限り暗い未来が待っているのかもしれない…と思える。不安を抱えたまま、現状を取り繕ったかのようなラストに思えた。
なんとも思わせぶりなのに結局何も起こらない展開にもどかしさを覚えたし、何も変わらないし何も解決していない、真綿で首を絞められ続けるような結末にモヤモヤした。

でもそれは私の中で「宗教は悪」という意識がありすぎるせいなのかもしれない。
色々な人が見れるように作られているだけなのかもしれない…と思うと、これもまぁ彼女にとっては悪くないのかなと思えてくるから不思議。
これからどんな学校に進学して、どんな恋人が出来るかで如何様にも変わるであろうちひろの人生、もっと見ていたいと思った。
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