蟻子

僕を育ててくれたテンダー・バーの蟻子のレビュー・感想・評価

3.9
主人公JRは父親に恵まれなかった。親ガチャで言えば完全にハズレの父親であった。そんな彼が母親や叔父さん、祖父母ら家族に愛されながら成長していく過程を眺める。間違いなく良作。
刺激的な展開を求めない人もしくは、穏やかに浸りたい気分の日にぜひご鑑賞あれ。

---

物語は主人公JRがシングルマザーの母親と2人で母親の実家へ引っ越してくるところから始まる。(幼い彼のまつげがバッサバサと存在感あり、釘付けであった)

幼いJRは同居人でありバーを経営している叔父のチャーリーから『男の流儀』のようなものを教わり、彼やバーの常連たちを通して様々なことを教わりながら成長していく。


…それにしても、邦題の語感が悪すぎるのはなんとかなりませんかね?



***この先物語の内容に触れますので苦手な方は回れ右***


バーで過ごす際の酒とタバコの位置関係など細かいことからなんでも教えてくれたチャーリーだが、特に『母を敬え』『車を持て』『女を殴るな』ということは男として守るべき掟のような、絶対条件であった。

JRは生まれてからほぼ一緒に過ごしたことのない父親に対して、クズ男と知っての嫌悪感もありつつも子供故にどうしても憧れのようなものを持っているのだが、
大人になって父親と再会した際の父親のあまりのクズっぷり、特に叔父が男なら守れと言った三箇条をことごとくハズしており、一番守らなければいけないと言われていた『女を殴るな』をまさに破ってDVしている姿を見てついに吹っ切れる様が爽快であった。

父親はラジオDJをしていたが、借金は返さず養育費は払わず、アル中のくせにカクテルのような酒を飲み、女のことは殴る、まさに最低男であった。
こんな血の繋がりしかない父親より、実際に自分に数々の教えを与えてくれ、色々なことを経験させ育ててくれた叔父チャーリーとバーの常連たち含むバーそのものの存在が、まさしく彼にとっての父親であった。

彼から車を受け継ぎ、その車での思い出をプレイバックするラストシーンというかエンドロールは、こんなもん胸に迫る以外のなにものでもない…!めちゃくちゃ感動します。非常に良かったです。

独り立ちするJRを見送る時に、「戻って来るなよ!」というような言葉で見送るのがまた粋だなぁと思います。
自分だったら絶対気をつけてねとかまた会おうとか名残惜しい空気出して色々言っちゃうもんな…




で、母親と叔父から愛され期待されているのはまぁ当然想像できるというか、すごくいいんですが、普段家族思いな面が感じられなかったおじいちゃんとのエピソードがめちゃくちゃ良いです。
父親が参加するべき学校行事に祖父自ら父親代わりを名乗り出てくれて一緒に過ごすシーンが最高でした。
父親には恵まれなかったけど、こんなにも家族みんなから愛されて…と思うと、静かに胸に込み上げるものがあります。

うーん、良作ですね。。


ずっと手に入れられずに追いかけていた女の子とのエピソードは割とどうでも良かったなぁと思ってしまったので、個人的には4.0は超えずという感じですが、
ストーリー大筋の平凡さと差し引いても、見る価値のあるシーンが多かったと思いますので、非常にオススメです。
蟻子

蟻子