TaichiShiraishi

三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実のTaichiShiraishiのネタバレレビュー・内容・結末

4.9

このレビューはネタバレを含みます

三島由紀夫の思想やら作品やら、東大全共闘の系譜やら、平成生まれの身としては、いまさら付け焼き刃の知識で解説しても意味ないし、しきれない。

でもとにかくどんな思想の持ち主でも、ノンポリでも、この映画を見たらある程度の敬意を払い、彼らの発言に耳を傾けざるを得ないのは分かる。言っている内容よりも彼らがどんな人間で、どれだけの覚悟で話しているのか、この映画を見ればひしひしと伝わってくる。

この討論会は1969年当時からすぐに書籍化され、多くの人々に影響を与えてはいたが、今回の映画が公開されたことによって、文字だけではわからない、会場の雰囲気、言葉の応酬の熱、そして三島由紀夫という巨人の思想が相対する人間すら惚れさせてしまうようなカッコよさ、カリスマ、知性とユーモアにあふれた語り口、余裕、確固たる意志の強さがひしひしと伝わってくる。

それは当時を知らない人間でもかつてこんな時代があったのだと思わせられる力がある。

そしてお互いへの敬意も素晴らしい。

東大全共闘はあくまでも議論と団結を重んじる団体だった。

TBSが保管していた80分の討論会映像、その中で彼らはあくまでも三島由紀夫と議論を交わすことを目的とし、相手への敬意を払って言葉を交えている。

一方の三島も、だれもが自衛隊駐屯地に立てこもってのタカ派全開の演説の後の切腹のイメージが先行しているのだが、この映画を見ると、天皇主義者の自分と意見が正反対の東大全共闘に討論に呼ばれ、たった一人で訪れて冒頭10分間温厚な口ぶりでユーモアを交えつつ、しかし確固たる主義主張を持った人間にしかできないであろう演説をして見せる。

三島由紀夫も全共闘の面々も、盾の会も、のちの世から当時を語っている識者たちも、誰一人、逃げようとせず自分の言葉をぶつけようとしている。

それは彼らの証言をまとめて映画にしている作り手たちもだ。

そうやって戦う覚悟があるからこそ、三島と全共闘は思想的には正反対でもお互いに通じ合う部分があったのだろう。

相手の言っていることには賛同していなくても、相手が全力でそれを主張しているということは信頼していた。

そのお互いへの敬意と責任をもって自分の言葉を発する姿勢は今のネット社会の左右の無責任な罵詈雑言とのぶつけ合いとは全く違う。

この映画は勉強のために見に行くものではなく、三島由紀夫と東大全共闘、左右の本物の思想家たちのぶつかり合いを通してその覚悟を感じるために見るものだ。

この映画を見たら知識はなくても何かしなくてはいけないという意識は芽生えるだろう。

稀有な出来事を稀有な目線でフェアにまとめ、当時の熱を蘇らせた最高のドキュメンタリーだった。

細かい部分に触れておくと、とにかく三島由紀夫が、ちょっとだけ左寄りな自分とは思想が違うけど、カッコよすぎた。今こんな人間いない。あの話し方をする人がまずいないもんな。

百田尚樹とかもしかしたら三島由紀夫にあこがれているのかもしれないけど役者が違い過ぎる。

そしてだんだんと「左右は違っても三島と全共闘は根本的には同じ」という方向に集約されていくのが面白い。今の日本は左右の対立にこれがない気がする。

また現在も芸術家として活動する73歳の芥も映るのだが、その枯れることのない情熱と眼光の鋭さ、確固たる思想、今の若者でここまでの人間になる人間がどれくらいいるだろうかと思わせられる。


この映画を見た段階で彼らの言っていることがわかる知識がなくても、彼らの言うことがわかるようになりたい、自分も誰かと議論を交わせるようになりたいという意識は持てるのではないか。

とにかく全日本人必見。

東出の件でマイナス0.1
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