イルーナ

ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へのイルーナのレビュー・感想・評価

3.8
クストリッツァ監督作に続いて観た、ムヒカ大統領のドキュメンタリー。
フジテレビのディレクター、田部井氏によるドキュメンタリーということで、本作では日本とのつながりが描かれます。
もちろんベストセラーになったあの絵本も登場。
日本についてとても詳しくリスペクトしていることに驚かされた監督は、その後何度も取材を重ねる。そして絵本の出版社の協力を得てついに来日が実現した……

なぜ彼が日本について詳しいのか。
ペリー提督の来航の話を知っているのも驚きでしたが、近所に日本人移民がいて菊など花の栽培法を教わっていたという意外なつながりが。
当時の移民の名前をはっきりと覚えているのは、それだけ勤勉さが印象に残っていたのでしょう。
近所の人が、一介の花作りからゲリラを経てあれよあれよという間に大統領まで上り詰めたのを見て驚いていたのが印象的。

初めて日本を訪れた彼の目には何が映ったのか。
京都・龍安寺のつくばいに刻まれている「吾唯足知」の意味を聞いて「ソクラテスの言葉みたいだね」と答える姿に教養の深さを感じさせます。
海外からの視点で、日本人の規律意識の高さは必ずと言っていいほど取り上げられますが、これについても古くから多くの困難を乗り越えてきたことだけでなく、人口の多さから規律がなければ成り立たないことを見抜いていた。
その上で祖国と比較された場合は、「人生で大切だと思うことが違うだけだ」と答えるあたりに、賢さと互いを尊重する意思が感じられます。
広島の平和記念公園を訪れた際には「日本に来てもし広島に来なかったら、日本の歴史に対しての侮辱だと思います。それと同時に人類に対しても。名誉なことで義務だとも思います」と発言。
その学ぶ姿勢に背筋を正さなければならない思いです。
とりわけ白眉だったのは、未来を担う学生たちへの講演。
人生を操縦できているか。生きているという奇跡に意味を持たせられているか。
「人生で一番大切なことは成功することじゃない。転んでも再び立ち上がることだよ」
「信じてないなら、自分が信じられる何かを作り出そう」
当たり前のことですが、彼の歩んだ人生も相まって重みがすごい。そして勇気づけられる。
「愛は時に闘争や貧困を生み出してしまう、例えば好きな女性がいたとして、周りにたくさん彼女が好きな男がいたら、いかに倒すかを考えてしまう」と言う学生に対しての答えの鋭さ。
「冗談に聞こえるかもしれないけど、生物学的には彼女は無意識のうちに選んでいるんだよ。人類のためとなる選択を」
そしてこの講演後、「奇妙だが、80歳を超えた老人の言葉を一番理解してくれたのは若者達だった」と語っていますが、こういう若者が多いってことは日本も捨てたものじゃないと思えます。

クストリッツァ監督作と見比べてみるのも一興ではないでしょうか。
イルーナ

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