えいがうるふ

ふたつの部屋、ふたりの暮らしのえいがうるふのレビュー・感想・評価

3.9
しっとりした晩年のラブストーリーかと思いきや、意外にもサイコスリラーに近い展開で面白かった。

いきなり老女二人ラブシーン?でその「老いてなお・・」の現役っぷりがさすが。むしろ感動。
個人主義&死ぬまでアムール万歳の彼の国ではもはや年代を問わずこういった関係も当たり前に理解されるのだろうと勝手に想像していたが、そうでもないのか。赤の他人ならば「人は人」と思えても、いざ身内の問題として突きつけられると本能的に受け入れがたい気持ちが湧き上がるものなのか。
実際のところ、多様化への社会の壁以上に、一番崩し難いのは身近な人間の心の壁なのかも知れない。自分も人生後半戦に何が起こるか分からないので、今のうちにこうした作品を家族と観てお互いの見解を話し合っておくのも有りかも、などと思った。

それにしても、父親がDV夫だったことを知りながらも「それでもうちの両親はラブラブだった。父が死んでも母が再婚しないのは今も愛してるから」だなんて、幸せ家族の幻想を子どもに押し付けられたまま晩年を過ごす母親の心中の地獄たるや。言えないのは子を思いやる母のやさしさ故か、人生の最後に最愛の家族から全てを否定されることへの恐怖故か。背筋が寒くなるが、案外一番リアルで一番見過ごされている家庭内ホラーかも知れない。

意外なサスペンスとして味わうだけでなく、その背景や自分の晩年の予期せぬ可能性について考えるきっかけにもなり、今観てよかったと思える作品だった。