どん

ファーザーのどんのレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
3.8
やっぱり映画は必要以上に
情報を入れずに見るのが正解。

ポスターは薄目で見ておいて
「ほぉーーアカデミー賞かぁ」と
つぶやきながらそのまま映画館に
行きましょ。
書いてある文字をちゃんと読むのは
映画館を出てからね。


共感性を持たせるためのヘッドフォンから
家具や小物の配置の仕方、色調、配色、
言葉選びと脚本美術音響の隅々まで
しっかり考え抜かれてぜんぜん隙がない。
さらに主演2人の圧倒的な存在感。
特にレク…アンソニー・ホプキンス御大の狂気を
孕んだ目と迫力は健在。かと思えばお茶目な
「ゥーップス!」が可愛いすぎてたまらん。
しかし長編初監督作品でこれだけの振り幅の
演技を引き出すってのも素晴らしいなー。

娘を、家族を疑いたくなる気持ち
体力の衰えからくる思考と経験への過信
不安と疲弊でおさえられない感情
これから来たるべき親の介護や自身の老後にも
考えをめぐらせざるをえない引き込まれ方。
介護現場での意思確認の難しさや虐待問題を
内包しながらも物語としてしっかり完結させる。

不自然に開けられたドアの意味。
見えている通りの部屋の扉ではない…
着ているものがジャケットからパジャマに
部屋の色がなんとなく緑っぽくなって
時間軸が交錯…いや現実と思い出が入り混じって
今がこんな風に見えてるのか。
未来だけではなく、過去が簡単に
書き変わるのが人間。
まぁ…だからこそなんでも気持ちの
持ち方次第ではあるか。

どれだけ物や知識を持っていてもいずれは
何も持っていない子供のようになって
世界から居なくなる。

でも「葉を失う」という台詞の後に木々の緑を
ゆっくり映すことが、次の世代へのつながりを
安心して見ていて欲しい という監督から
親世代への敬意を込めたメッセージのようで、
少しの希望に思えた。

感情がぐるぐると揺さぶられて
ぎゅーーっ…と締め付けられる作品でした。
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