小指

ファーザーの小指のレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
4.3
まさに“認知症の追体験”だった。
映画が始まってすぐ世界観にのめり込んだ。
わたしの祖母は認知症だ。トンチンカンなことばかり口にする祖母に辟易しつつも母は毎日共に暮らしている。
もしかしたらわたしの祖母もアンソニーのように自分の混沌とした記憶に苦しんでいるんだろうかと思うと何度も涙が出た。
アンソニーと祖母の言動が重なるたびになんだか苦しくなる。
認知症の人間は不可解な言動も多くて近くにいる親族は振り回されてばかりだけど時折みせるアンソニーのチャーミングさ。これよく分かるなぁ。ほんとかわいいんだよね。

終盤アンソニーが「ママに会いたい」と泣くシーン 大抵の人間にとって母親という存在は偉大なのだなとひしひしと感じた。
自分を「すべての葉が落ちていくようだ」と例えるアンソニーに胸が痛んだ。と同時にそういう言い回しを引っ張り出してくるところがいい。

わたしだって将来認知症になる可能性は大いにある。アンソニーのように枝だけの樹木となり自分の記憶に苦しめられ戸惑い母に会いたいと泣くのかもしれない。認知症になる可能性もあるけどならない可能性だってある。この映画を警鐘と捉え高齢者になっても脳細胞を余すことなく使う人生を送りたいものだね.............

物語以外でいうとカメラワークの不穏さがよかった。この映画こういう雰囲気なの?とゾッとする違和感がいい。
また建物や部屋やインテリアや洋服がかわいくてそちらも楽しかった。

現実で認知症の人間と共生することの苦労や困難はこの映画で表現されたものよりもっと辛辣であることは重々承知のうえで それでもこの映画がそんな人々のすこしの救いになればいいなと願わずにはいられない。そしてまたわたしは自分の母に畏敬の念を覚えた。
認知症になった自分がすべての葉を落としたような木に思えても その木を見上げた他者には多くの葉を成した樹木のままに映ると思うしそう在る一高齢者へと年齢を重ねたい。
小指

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