ゆう

ファーザーのゆうのレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
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私事ですが、私には認知症の祖父がいます。実家に住んでいるので同居です。

この映画で描かれるのは認知症の父親の目線で描かれた世界。
認知症になると記憶や時間が混在し、何年も前の話を急についさっきの事のように話し出したり、大切な人の顔も名前も忘れてしまう。

私の祖父は軽度の認知症ですが、物忘れは当たり前、劇中のように服の着方を忘れる事もあるし、記憶が混ぜこぜになり、相手を一方的に責め立てることもあります。

母が主に祖父の面倒を見ているので、アンと重なり深く共感し、何度涙を流したか分かりません。あまりにもしんどくて途中で映画館から逃げ出したい気持ちに駆られたのは初めてでした。

この映画では先ほども述べたように当事者目線で語られるため、認知症を疑似体験しているかの様な映像展開にぐっと引き込まれます。アンソニー・ホプキンスの演技は演技を超えていた。祖父の行動や言動と重なる部分が多々あり、祖父を見ているような気持ちになりました。
そんな祖父もアンソニーと同じように不安の中にいるのだと映画を観て居た堪れない気持ちになりました。
認知症を描いた作品はあっても本人目線で語られる映画はきっと数少ない。
認知症側の景色を知れただけでも大きな発見でした。


最初の頃は元気な頃の祖父を知ってるからこそ祖父に冷たく当たってしまう事もあり、きっと祖父はなぜ冷たくされるのか訳が分からず辛かったんだよなと祖父の気持ちを理解してあげられなかったことに後悔しています。そして一番祖父といる時間が長い母には頭が上がりません。

劇中の出来事が他人事ではないから辛いけど目を背けては行けない。将来両親に起こるかもしれないし自分かもしれない。
同じように繰り返す毎日に調子が良い日は胸を撫で下ろし、調子が悪い日には家族全員で協力し合いながら祖父の気持ちを汲み取り安心させるように心掛けています。本人を否定しない。これが支える側が意識する大切なことだと思います。


認知症になるということがどういう事かよく分かる映画ですので、多くの人に見てもらいたい作品です。
ゆう

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