まめまめちゃん

ファーザーのまめまめちゃんのレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
4.5
年齢を重ねもの忘れがひどくなったある男アンソニー(アンソニー・ホプキンス)の視点で描かれる、娘アン(オリヴィア・コールマン)やその周囲の人々との日常の物語である。

1ヶ月前に見てるうちに途中で寝落ちて、別の映画館で始まるのを待って再鑑賞。

物語が進行するとともに、症状も進行していく。
「アンソニー自身にとって」初対面の人物、初めての事象が入り乱れ、場面に入ったり出たりしながら、おそらく「アンソニー自身によって」それぞれの事象が勝手に書き換えられていく。物語の終盤になるとほんの数分の出来事が繰り返される。
これで混乱しない人間がいるのかと思うし、どれほど人間の脳が情報をうまく統合し記憶を頼って社会的に生かされるのだろうと驚愕する物語でもある。
アンソニー・ホプキンスは、忘れた事実を隠して同調したり、嘘をついて誤魔化したり、時に激昂して周囲を戸惑わせたりしながらも、やがて退行していく人間そのものを素晴らしく演じていたと思うし、よくぞ当事者の視点をここまで再現できるものだと感心した。相当粘り強いインタビューや観察が行われたのだろう。
症状の進行は周囲の人間をも混乱させ、時に当事者のプライドを守るために犠牲になることも、オリヴィア・コールマンが上手く演じていたと思う。この虚しさ、報われなさは、負担の大きさに加えてとてつもない疲弊を伴うことも想像に難くない。

97分という短い時間で、情報のぎっしり詰まった、目の離せない映画だった。これを記憶の中にどれほど留めておけるだろう。とりあえずは鑑賞後すぐにフィルマに書き留めておいて間違いはなさそうだ。

あえて言うならこのアンソニーの「フラット」。部屋の仕切りが細かく、誰かがいたと思ったら「少し待って」「探してくるね」「持ってきます」「連絡する」などと言ってその場からしょっ中(居づらくなって?)いなくなる。その直後に違う話になる展開が多かった。
認知症の特徴かもしれないし、認知症を描くにはもってこいの住宅で、だから認知症患者には良くない事象なのかもしれない。