butasu

ファーザーのbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

ファーザー(2020年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

認知症の本人から見た世界を描いた作品。その発想と映像化のアイディアが凄い。特別奇抜な演出があるわけでもないのだが、だからこそジワジワと本人の混乱と恐怖が伝わってくる。

人に対する当たりがキツくなる認知症患者が多いらしいが、そりゃこれだけ世界が信用できなくなってしまえば、自分を守るためにそうなるだろうと納得してしまう。自分の中では何一つ変わっていないのだから、"ボケているおじいちゃん"として子供みたいに扱われることへ「舐められている」と苛立つのも当然。

時系列の混乱、人物の混乱、事実の混乱…世界が何一つわからなくなり、ラストにママに会いたいと泣き出してしまう主人公の老人アンソニーを見て、こちらも泣きそうになってしまった。認知症になった家族に忘れられてしまう悲しさを描いた名作は数多くあったが、認知症側の不安と孤独をここまで鮮明に描いた傑作があっただろうか。自分を見捨てずに一緒に暮らしてくれていると思っていた長女は男と海外にいる、疎遠になっていると思っていた次女は事故で昔亡くなっている、自分のフラット(家)だと思っていたところは老人ホーム…「すべての葉を失っていくようだ」という彼の台詞があまりにつらい。しかも彼はまたこの事実を忘れ、そして思い出す。何回も何回もこの孤独を感じさせられるのだ。なんと残酷なことか。アンソニー・ホプキンスが素晴らしすぎた。
butasu

butasu