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佐々木、イン、マイマインのHrtのレビュー・感想・評価

佐々木、イン、マイマイン(2020年製作の映画)
4.6
まともに食らってしまい膝から崩れ落ちた。
作中でも登場する戯曲『ロング・グッドバイ』(テネシー・ウィリアムズ作)がネット上にあったので読んでみた。
戯曲の構成に則った現在と過去の交錯、それ自体は見せ方として別に珍しいことでもないが本作はスパイラルをなすように複雑に絡み合いやがて時制が一つに収束していく。
佐々木役で原案でもある細川岳はこの作品を作れないなら役者を辞めるとまで言ったそうだが、その腹の括り方がとてもリアルに伝わってきた。
それはこの物語自体が、過去や現在に別れを告げ役者になっていく話そのものだったからだ。
クライマックスで青春の日々とは逆方向へ進みながら戯曲の一節を口にする姿がまさにそれだろう。
ともすれば個人的な領域を出ない実在の人物をモデルにした作品が、恐ろしく繊細で普遍的な感情が混ざることでこうも不特定多数の誰の中にも潜む青春を引き出させるものになるという事実に心が震えた。
佐々木の人生でハイライトになるであろうある日のカラオケボックス。
夜が明けて外に出たときの少し寒々しくも開けた空気を思い出して涙ぐんでしまう。
心を揺さぶられる随所での撮影や美術の凄さ。
内山拓也監督は自分がまず作品を俯瞰することでそれぞれのポテンシャルを引き出し撮りたいものをしっかり撮れていたのだろう、その編集もとても巧みに思えた。
役者は本当に全員良かった。
まるで台本なんて無いように思える高校時代のあの4人のやり取り、または惰性の同棲状態の奇妙だが自然な関係など尋常じゃない血の通い方を感じた。
素晴らしいという他にない。
出会えて良かった作品。
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