叡福寺清子

アーニャは、きっと来るの叡福寺清子のレビュー・感想・評価

アーニャは、きっと来る(2020年製作の映画)
3.5
時は1942年.パリを含めたフランス北部はドイツ軍の占領下に置かれ,ユダヤ人が次々と収容所に移送される時代.しかし南仏,しかもピレネー山脈を挟んでスペインと国境を接するレスカン村は戦時下にあっても,その生活に変わりはありませんでした.その地にドイツ軍が駐留するまでは・・・
村民の少年ジョー・ラランド君はある日,森の中でベンジャミンと名乗るユダヤ人男性と知り合います.なんでも,子供達を集めて,山脈を超えてドイツ軍が駐していないスペインに逃げるために.その子供に,生き別れた実子アーニャさんも含まれているのですが・・・

圧巻されるのはピレネー山脈の大自然.そりゃこんな所に住んでたら,『フェノミナ』のブルックナー先生みたいな人も形成されるわなと思った次第・・・って違うか?たぶん違いますな.
それはともかく,こんな大自然の中にあっても人間は争い,支配する側される側に別れるのかと,普通の感性なら批判的に受け止めるかもしれませんが,あいにく私はふんぞり返る一部ドイツ兵達を見て,やっぱ人間ってこうだよなぁと妙に納得した次第.戦争の前には大自然なんか関係ないんですよ.逆に言うと,「やっぱ,空気おいしいわぁぁ」って実感するためには,平和じゃなきゃダメなんですわ.
さらに捻れた性格の私から申しますと,いつ渡西できるかもわからない,ただただ淡い期待と空虚な時間を子供達に強いるベンジャミンさんはなかなかに悪辣な人物・・・さすがにそれは言い過ぎですか.でもなぁ病気の子供に薬も与えることができない状況は,やはり大人の責任だと思うのですよ,あたしゃ.もちろん,収容所よりも,森の中で声を潜めて生きる方がマシだとは思うのですがね.

あとタイトルにまでなってるのに,アーニャさんの描写が結構な塩梅で希薄なのはどういう仕様なんでしょうね.教えてエラい人!!