永遠の寂しんぼ

君は彼方の永遠の寂しんぼのネタバレレビュー・内容・結末

君は彼方(2020年製作の映画)
1.3

このレビューはネタバレを含みます

『酷いを超えて怖い…これがZ級なのか…』

今年2020年は言うまでもなく鬼滅の刃の超大ヒットを筆頭に、Fate/stay night、ヴァイオレット・エヴァーガーデンなどのアニメの劇場版が豊作だった半面、原作のないオリジナルアニメ映画は不作の年でした。そんな中で来た本作。新海誠監督作品に続くような期待を込めて事前情報をほぼ入れずに先入観無しでの状態で挑みましたが、本当にとんでもないものを観てしまい、だいぶ精神にダメージを食らいました。トラウマ級です。応援する気でいたので本当に残念です。
 
かなり制限のある製作状況の中で挑んだチャレンジ精神を応援したかったのですが、どう考えても擁護できるのは劇伴音楽だけです。BGMだけは良かったです。お話によく合った雰囲気を作り出していました。音楽を担当された方は過去に何作もアニメの劇伴を手掛けた人なのかなと思いましたが、調べたらそうでもないみたいで驚きです。ただ本作ではBGMが作り出す雰囲気、監督が多分こうしたかったのだろうな、という志のようなナニカだけが前に出て、それ以外の全てが置きざり状態です。脚本を書いた監督の高い意識だけが空回りして、それを具現化する実力が全く伴っていなかったと言わざるを得ません。
 
まず作画は劇場で流していいものでは全くないレベル。止め絵だけのダイジェスト、ごく単純な動きの繰り返しだけの動作。どこが作ったのかは知りませんが背景の自然美術は綺麗なものの、手書きの建物やキャラクターなどは完全に浮いてしまっていて違和感しかない。シーンやキャラを演出するエフェクトも同じものの使いまわし。
 
声優陣も主演二人が壊滅的。瀬戸利樹さんはほとんど感情が乗っかっていない棒読み。松本穂香さんはそこまで下手ではないと思うが明らかに演技の方向性が違う。新が幽体離脱で叫ぶシーンは酷すぎるし、主人公の澪が泣き叫ぶシーンはトラウマになるほどアニメ的な演技とかけ離れている。他のキャラの声は山寺宏一さんと大谷育江さんのレジェンド級と大ベテランのプロ声優陣に加え、ゲストの大物俳優陣とかなり豪華でもちろん文句無しの演技ですが、後述の杜撰すぎるキャラクター設定と脚本で台無し。完全に声優さんの無駄遣いです。
 
生と死の狭間の世界を彷徨いながら自分を見つめ直す、という最初のプロットはだいぶベタではあるけど悪いものではないし、主人公の澪を通して観る側に伝えたいメッセージ自体は良いと思います。しかし、その肉付けがボロボロにも程がある。新と織夏というキャラの背景にある設定は完全にセリフだけの説明で回想シーンは一つもなく意味不明。その設定を無理やり物語に突っ込んだせいで現世側の話も滅茶苦茶。結果、新は何の伏線も無くなろう系ライトノベルの主人公でした、みたいな意味不明な展開。澪が親友の円佳との三角関係になるのを恐れたという物語の発端は良いものの、その後の円佳は完全に空気と化し、エンドロールの挿し絵で雑に片付ける杜撰っぷり。
 
世の境での物語も完全に破綻していてキャラクターもツッコミ所しかない。物語の都合に合わせてスタンスを変える敵か味方かよく分からないキャラクター達。澪の味方のようなキャラクター達も掘り下げゼロで、協力関係の上で澪が成長したようには全く見えなかった。そのキャラ達がなぜ存在するのかも適当なセリフ説明だけだから、とりあえず物語に放り込んでみた、みたいになっている。映像でもってアニメを作りあげるという事を完全に放棄しているとしか感じない。そもそも後半に幽体として現世(に見える場所)に澪がいるなら、列車で渡った海(三途の川?)も池袋みたいな異世界も描いた意味をあまり感じない。ただの池袋なら異世界ファンタジー的な面白さも無いし、影みたいな幽体がいるのもちゃんと描いてる時間が無かった事の言い訳。その辺の世界観の構築もガバガバ過ぎる。
 
そして、本作最大の問題点はやはり既存の有名アニメ映画の下手すぎるオマージュ、というかパクリ。元ネタは『君の名は。』、『天気の子』、『千と千尋の神隠し』をベースとしてその他多数。それらが呆れるほどの低クオリティで物語上ほとんど意味のない演出として無理やり突っ込まれるから、アニメ映画ファンは見ていて苦痛にしか感じないと思う。特に澪の謎のミュージカルシーンはドギツイしか言いようがないです。

さらに、この映画は命が懸かっている重めのテーマを杜撰な脚本で引っ張り回し、共感しようが無い無茶苦茶な物語を強引に感動的なラストに持って行った結果、生と死の価値観がぐちゃぐちゃになり中盤以降はかなりカルト感が強い物になっている。事前情報無しで観ましたが、どこかの宗教団体の会員が劇場のどこかで見張っていないか本気で心配になるほど宗教的な怖さ、おぞましさがあります。

監督が名作アニメ映画に触発されて作った、「こういうのが作りたかった、でも失敗した」みたいな映像をひたすら観せられる退屈さ。意味不明な設定と迷走し続けた挙句に強引にハッピーエンドに仕上げた事から来るカルト的な気持ち悪さ。意識だけが先走った実力の伴わない監督のやっつけ仕事としか思えない作品です。

多分、本作が10年前に公開されていても評価は大して変わらないと思います。それくらいアニメ映画という物の根幹が体を成していません。作品のクオリティだけでもここ数年、もしかしたら10年くらいで最低レベルの失敗作だと思います。これがZ級というものなのかとその恐ろしさを思い知りました。
絶対に観ない事を強くおすすめします。