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空白のsacoのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
4.2
人は大切な何かを失った時に生まれる様々な負の感情に”どう折り合いをつけて”乗り越えて再生していくのか、そういう事を丁寧に描いている作品だと思う。

あるひとつの切っ掛けから、事は波紋のように広がり、更なる悲劇が生まれる。
関わる人物達は、特別な人ではなく普通に日常を送ってきた人。
けれど、その事件によって一人ひとりの感情が浮き彫りになって膨張し、破裂する感じがすごくリアルに出ている。

無骨で気性の荒い漁師、添田(古田新太)は、娘にも厳しく無関心だったがその娘の受け入れ難い死によって、行き場のない感情を闇雲に肥大させて、理性を失っていく。何が真実で何が偽りなのか。
見ていても分からなくなる。

更に登場人物の胸中に秘められた感情まで、無理やり引き摺り出していくあたりが非常に辛かった。
スーパーの店長青柳(松坂桃李)の徐々に鬱屈する感情も息が詰まる思いも痛いほど伝わる。
それを逆撫でするような悪気のない女店員(寺島しのぶ)の行動。彼女も孤独の中、常にすがるものを求めて生きている感じがして少し同情したくなった。

TV報道の仕方で、面白おかしく視聴者の気持ちを煽るところとかもリアルで”ミセス・ノイジィ”とかと重なって見えた。
脇役も皆、良い。
元妻の田畑智子の言葉がどれも心に刺さる。
漁師の弟子の子も良い。
自殺した運転手の女性や葬儀の時の母親の言葉も虚をついて胸に沁みた。

自分以外の人に思いが及ぶに至って、初めて冷静さを取り戻し、娘の日常も見えてきて、いつもそばにあったもののかけがえのなさに、改めて気がつきハラハラと涙する添田のシーンはじーんとする。

海辺で、添田と青柳が改めて対峙するラストちかくのシーン、添田の鞄に下がる娘のマスコットを観て、号泣して謝る青柳、あまりの感情の爆発に一瞬、あの時店の控え室(空白の時間)でやっぱり何かあった?と思いそうになったが、それは深読みで、添田の思いを見て、辛くなっただけかと思い直したりした。

全ては添田のラストの言葉「みんな、どうやって折り合いをつけるのかなぁ....」に集約されてると思う。
大切なものを失った時、湧き出る感情は個々で違う、それを受け入れて再生へと前に進むにはどうすればいいか、折り合いの付け方は皆違うから答えは出ないなぁと思いました。
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