このレビューはネタバレを含みます
人間の性悪さを曝露される居心地の悪さ スリービルボードを彷彿とさせる 子どもの死により、その原因究明という名の暴走が親子関係の不健全さ、自身や周囲の利己的な態度を炙り出していく
威圧的な態度で周囲を従える父・添田充の姿、それを怯えたように自信なさげな姿の娘・花音 この花音の本当のところを安易に答え合わせをさせない姿勢がこの映画の素晴らしいところ つまり、それは空白であると それが各々の“贖罪”や“救済”にさえ、利己性が孕むことを指し示すのだ
周囲と馴染めない姿、教師から努力を認められず、父には些細なことさえ告げられず、母は優しいけれど別の家庭を築いていて そして、万引き、逃亡、乗用車との衝突、トラックによる轢死 カメラワークの臨場感が見事 走る花音と青柳の姿、青柳の視点からの目の前で車と衝突して消える花音、花音と衝突するドライバーの視点、さらにそこから逃げ出して動けなくなったところを掻っ攫うように轢き殺される まさに容赦ない 地面に血の跡ができるその凄惨さったらない ここで変に周囲に叫び声や泣き声を入れないところが良い
暴走していく添田にマニキュアの色を透明だと告げるシーンは予告でも使われていたが、胸がギュッとなる 彼女のことをクラスメイトも含めて印象にないと言うが、まさに彼女は透明にならないと生きていられなかったのだと思う 薔薇の制作をしていて、後ろの男子に手伝うようにどやされるところもしんどい 彼女はいじめられていたわけではないというバランスがめちゃくちゃリアルで良い
また、青柳も複雑な心境を抱えながら、しかし誠意を伝えようとしても、添田だけでなくテレビでの悪意しかない切り取りによって破滅へと追い込まれていく この後からの蝕まれていくバランスがリアル 草加部の正しさを“ポジティブ”に押し付けるような雰囲気は、良い人なんだろうけど、めちゃくちゃ息苦しくて さらに好意も隠しきれていない感じで でも、独身同士、別にそれ自体は悪ではなくて ただ、気持ち悪さもありという
余裕がない時に、普段のキャパなら許容できるところを許容できなくて、過剰に攻撃性を剥き出しにしてしまった際の強烈な自己嫌悪っていうところもめちゃくちゃリアル その瞬間に1番死にたくなるというか 唐揚げが一個入っていなくてめちゃくちゃブチギレて自分で自分にショックを受ける まるで自分がやられたことを相手にやり返すように その浅薄さにいたたまれなくなって、めちゃくちゃ謝罪の電話をするというあそこが見事 その後の草加部も、炊き出しでカレーをこぼした仲間にブチギレてしまい、涙をこぼす ここの2シーンはやはり見事だし、めちゃくちゃリアルな生活に根ざした“死にたくなる瞬間”の現出だと思う
それから、花音の死はあらかじめ提示されていたストーリーだから衝撃はあれど見る前から知っていたところ ただ、その後の謝罪を拒まれ続けたドライバーの女性が自殺するところはめちゃくちゃ驚いた ここでの添田の立場が反転するようなところが見事 ただ、ここのお母さんよ ここが1番凄かったかも スリービルボードでいうオレンジジュースのシーン 片岡礼子の短時間ながらの存在感 添田を責めるのではなく、その気持ちを押し殺しに押し殺して、娘がこういった形で逃げて申し訳ありませんと謝罪し、弱い子に育てた自身の責任であり、全ての責任は生涯かけて償っていくと でも、優しい子だったと、どうか彼女を許してやってほしいと 自分の子どもの死というこの上ない生き地獄の中で、本当の意味での親としての責任の取り方を目の当たりにして言葉を失う添田
添田がいきなり絵を始めたり、漫画を読み始めたり、それは彼なりの“贖罪”なのだろうが、それには利己性が孕むもので、結局は自分の“救済”であって だから、あそこで嫌悪感を持つ人も絶対にいると思う だって、許されるほどの威圧感ではなかったもの 何、分かった気になろうとしてんだと でも、やっぱり見事なのは、マニキュアを見つけてそれを捨て去るところ 結局、見たいところしか見ようとしていないっていうこと このシーンの誰かに覗かれているようなカメラワークも秀逸 でも、最後の絵 空に浮かぶイルカの形をした雲 ささやかな救済、繋がり 添田が後から娘を理解しようとする行為の欺瞞を断罪しつつ、救済も描くというこのバランスはなかなか凄いものだと思う 自分の人生ベスト級映画でもある永い言い訳で池松くんに免罪符だと言われるシーンを思い出す また、後年の怪物とも重なる、人は見たいように見るという残酷さ さらに青柳が交通整理の仕事へ転職し、それに出会う添田が申し訳ない気持ちがあるとしつつも、まだ謝罪はできないと、気持ちの変化はありながらもまだ折り合いがつけられないというそのバランスもすごく良かった 青柳に話しかける青年がいて、また好奇の眼差しで不快な思いをさせられるのかと思った矢先、亡き母が焼き鳥弁当が好きだったと、それでショックだと そのありがとうございました、お疲れ様でしたがめちゃくちゃ効く ああいうのが1番仕事してる人からすると泣けてしまう瞬間だろう そんでもって、みんな野木のこと大好きになるよね 嫌だとか言って、むしろ添田の保護者だったの野木で 彼がいなかったらもっとキツイ空気の作品だったろうなあ 下手くそなモナリザイジリして、それが娘を描いたと聴いた途端によく見たら美人すね、は笑う 藤原季節もいい俳優だわぁ 慕うのもどうやら父親の姿と重ねているようで、それも彼からすれば贖罪で救済なんだろうな 見る人によって利己的な
