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滑走路のhynonのレビュー・感想・評価

滑走路(2020年製作の映画)
3.9
32歳の若さで命を絶った歌人、萩原慎一郎の「歌集 滑走路」をもとに作られたフィクション。

映画の中の何気ない演出や場面(看護師の腕にメモ書きがある演出など)も、歌集の中の歌から再現されたものだという。
あわせて歌集も読んでみたくなる。
というか読んでから観ればよかった。

テーマは重いけれど、意外にも構成や展開がトリッキーでミステリのようになっており、面白い。
時間があちこちに飛ぶので少し混乱する。

真面目で優しい人ほど苦しまなきゃならないなんて、あまりに理不尽だ。

遊び半分で人を傷つけ苦しめておいて、罪の意識もなくどこかでのうのうと生きている奴らもいるというのに。

そして、そういう人たちの方が要領よく立ち回ってどんどん出世して、いい目を見ていたりするのだ。かつて自分がしたことなどすっかり忘れて。
やりきれない。

でも、真摯に過去と向き合う「彼」は、強くて、勇気がある人だと思うし、要領が悪くても、出世できなくても、わたしはこの人が好きだ。

なぜかときどき起こる地震や、なぜか数十秒しか出てこない端役のあの人や、結局わからないままの疑問、ある場面でのある一言の意味など、よくわからないところがあるけど、そこがいい。

そういったあえてぼんやりさせている部分が、不可解で理不尽な現実をそのまま表しているようだった。
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