イルーナ

100日間生きたワニのイルーナのレビュー・感想・評価

100日間生きたワニ(2021年製作の映画)
1.0
昨年ツイッターで話題沸騰しながらも、その最後で映画化!グッズ化!コラボカフェ!いきものがかり!と、怒涛の商売っ気と企業案件があらわになり、瞬く間に人気失墜した問題作『100日後に死ぬワニ』の映画版。
この作品の魅力は、「死が予告されている状態だと、ごく普通の日常でも特別なものに見える」「毎日更新されるライブ感と徐々に高まる緊張感」でした。
ワニ君の死で、皆がしんみりしているタイミングでそれをやられたわけだから、一気に人が離れていった。特に天使になったワニ君を出したのが決定的にまずかったと思う。
明らかに売り込むタイミングを間違えたとしか言いようがないし、マーケティングの失敗例として反面教師にすべき話です。
そのため、本作は公開前から完全に敗戦処理ムード。ここを含めた各レビューサイトは内容と全く関係ない大喜利会場に、映画館の座席事前予約サービスを悪用して人文字を作られるといった大惨事に。
(もちろんこれらの行為は、マナー違反かつ映画館にも大迷惑なのでいけません!)
そもそもタイトルからしてツッコミ所しかない。普通なら「生後100日で死んだワニ」を連想しますよね?
しかし私は、このように観ないで批評したりネタにしたりするのはアンフェアだと思い、実際に身銭を切って観に行きました。
そして目の当たりにした驚愕の光景とは……?!

絵 が ま と も に 動 か な い
こ と あ る ご と に 尺 稼 ぎ
冒 頭 を 丸 々 使 い ま わ し

……はい、総作画枚数300枚などと揶揄されたのがよく分かるレベルで、本当に動かないです。
元々動きやストーリーを売りにした作品でないとはいえ、63分という、長編にしては極めて短い上映時間すら埋め合わせるのがやっと。
最終回後の炎上やコロナ禍を考えると、予算を極限まで切り詰めたんだろうなというのがうかがえる。というかキャストのギャラに大半が持って行かれた?
これらの要素を聞くと『チャージマン研!』や『秘密結社鷹の爪』と言った低予算の作品群を思い浮かべるかもしれませんが、それらの作品は視聴者を楽しませる熱意やエンタメ性がしっかりとありました。
本作はただダラダラしてるだけなので、はっきり言って上記の作品を引き合いに出して比較するのが失礼なレベルでしょう……
音楽がいきものがかりだったり感動的ですが、それらが良い分、かえってチープさが引き立ってしまうのが何とも。

そんな本作、原作との大きな違いはワニ君が死んでからの後日談があること。というか上映時間の約半分が後日談か。
そこで初登場するカエルがとにかく不愉快!
(桜の季節から100日後=梅雨の季節だからカエル?)
事情を知らないとはいえ、親友(彼氏)の死で落ち込んでいるグループに、ひたすらハイテンションかつ馴れ馴れしい態度。そりゃ遠回しにのけ者にするような態度を取られるよ……
他のキャラが抑えた演技なだけに、作品から思いっきり浮いています。
また、他のキャラと比べて妙にリアルなデザインな事を考えると、意図的に違和感を感じるように作られたキャラっぽい。
で、こいつもグループと似たような境遇にあることがわかって、ワニ君の後釜に収まりました……って、おい、ワニ君の立場はどうなるんだ?!
いや、言いたいことはわかるんですよ。喪失からの再起。でも後半からはワニ君が一切話題に出ないから、まるで立場を取られたようにしか見えない。
というかカエルのキャラも相まってある意味ホラー。
……ああそうか、タイトルの本当の意味は『(死後も)100日間(心の中で)生きたワニ』だったのか……

このように、映画館で上映されたのが何かの悪い冗談としか思えない作品でした。
そもそも題材からして不向きなのに、なぜ映画化しようと思ったのか。
せめて5分アニメシリーズだったらここまで言われていなかっただろうに。
怒りがわいてくるわけじゃないけど、観てる間の虚無感は中々のもの。
東京オリンピック共々、一度動いた大プロジェクトは、たとえ何があろうと止められないことを知らしめた作品でした。
とりあえず、上田監督、スタッフ、キャストの皆さんのキャリアに傷がつかないか心配だ……
イルーナ

イルーナ