アキ

護られなかった者たちへのアキのレビュー・感想・評価

護られなかった者たちへ(2021年製作の映画)
3.3
此作がイマイチ駄目なのは、あくまで適法下における処置に対して、まことにイリーガルな犯罪行為で応酬してしまった点につきる。その応酬行為も異常で残忍極まる処刑方法であり、そんな〇が最後にアレを語ったところで骨に響くはずもない。例えて言うなら、人100人殺した挙句に「人の環境破壊は許さない!」と言われても誰の胸にささるであろうか。確かに○の作法は良くなかった。だからといって人を殺めてもいい論理とならないのは小学生でも分かる道理である。

要するに、元凶は元来○の心の内側で処理すべき葛藤を、その未熟さゆえに外へ向かって暴発してしまった挙句の連続殺人ということなのであろう。しかし忘れてならないのは人それぞれには固有のストーリーがあるのであって、○の物言いがいかに不作法であったとはいえ、○の全人生を無残に奪ってしまう権利は誰にだってない。ましてや〇にせよその震災により随分な悲しみを背負ったわけである。役所諸々の行政事情も鑑みれば、やはり〇のあまりに軽率な殺人行為は、それを見てみぬふりできるほどには当方の心は広くはないし、許し難い蛮行である。

とはいえ社会派としてのメッセは強いものがあるし、今このご時勢に声高に叫ぶ意義もある。ゆえにこそ、そのメッセを伝える方舟の構造が的外れであったことを悲嘆するのである。そんな残忍極まる連続殺人を介することで果たして100%伝わりますか?って。エンタメ意識も理解はするが、しかしこの手のセンシティブな話材はもっと違った方舟(手法)にのっけて伝えるべきだったとは率直に思う。でないと伝わるものも伝わんないから。

ヤフ映画評にせよ当フィルマークにせよ高得点なのは理解できる。基本的なデキ栄えは素晴らしく、作中の雰囲気づくりも言うことない。エンドにかかる桑田佳祐の歌唱もウットリするほどに高ぶりを煽ってくれる。だからこそ度数25度の酒の酩酊にも似た正常な判断力の欠如を危惧してしまうわけで、よくよく細部を観察してみると、微妙に「ん?」と首を傾げてしまう箇所が幾重にも散見され、当方も酩酊状態に沈んでしまうところ、折を見て水を含み、ひと呼吸おいてある程度視界が開けた状態で此作を鑑賞することで、いったいに果たして役所の対応にひどい過失があったか否かについて一抹の疑義を唱えざるおえないわけである。
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