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PIG ピッグのSSDDのレビュー・感想・評価

PIG ピッグ(2021年製作の映画)
4.5
◼︎概要
山奥で世捨て人のような生活を送る男は、飼っているブタとトリュフを探し、少ない生活物資と交換に暮らしていた。
ある日暴漢に襲われてブタが奪われたことで、離れていた街に探しに出ることになる…。

◼︎感想(ネタバレなし)
圧倒的なキャリアを持つが、経済的な理由から作品を選ばずに出演していたニコラス・ケイジがキャリアの中でも最も素晴らしい演技をした作品だと思える。

寡黙な男を演じるにあたっての間や表情の使い方が素晴らしい、最初に人里に降りた時に久々に声を出すことからのどが絡むシーンから既に素晴らしいかった。

ブタを追うために過去の繋がりのある人物を尋ね回る、相棒には軽薄そうな取引相手の男を従えるという展開が読めないため没入しあっという間に終わってしまった。

ジョン・ウィックのようなプロットだが、まさに過去の繋がりの人間に会うたびに周囲が驚きの表情を見せるという、具体的に主人公に語らせたり、能力を見せずとも周囲の反応でその人物を見せていくシーンも類似性があった。

自己肯定のために他者との繋がり方が様々な形があり、その中で何に価値を持って今を生きているのか登場人物達の機微が描かれていて心が揺り動かされた。











◼︎感想(ネタバレあり)
・地元の仕切り
ブタをまず探すに当たった先の女性が"ブタを盗まれた"と聞いた時のリアクションからこの映画は最高に面白くなりそうだと思った。取引にあたって信用を重んじ不義理を許してこなかったのだと分かる"シメに行くよ!"というセリフは素晴らしかった。気骨のある人間、自己肯定が他人に委ねブレてしまう人間、過去の出来事に囚われた人間と様々な心中を描き分けられているのが素晴らしい。

・自己肯定の低い人間
相棒となる軽薄そうな男は父親の影に怯え、母が自殺に追い込まれたのは父のせい。父という怪物に様々な感情を抱いているという男。認められたいと考えてもいながら同時に嫌悪しているのと愛に飢えていた。料理を初めて習うシーンは父親像を主人公と重ね、幼い頃に出来なかった父子の関係が見えて胸が熱くなった。

最も良かったのは資本家や客に媚を売り成功とは裏腹に虚しさを抱えるシェフ。
本当にやりたかったことと現状の差分について、"周囲ばかり気にしてるが誰にも気にかけられていない"と忌憚無く告げられ、張り付いた笑顔から笑みが消えていくシーンは、SNSでの上辺だけで取り繕われた世界に囚われた現代人に対しての風刺としてきついものがあった。

・過去に囚われた男達
怪物である父親は妻の自殺未遂から常に力を誇示し他人の上に立つことで自我を保ってきたし、主人公も妻を亡くしてからブタを家族として愛する以外興味もなく生きてきた。二人が共に過去に向き合うことで自己を再生する。

ブタが死んだと聞いた時の泣き崩れるシーンは胸が痛かった。ブタを死んだ事実を受け止めた時、妻が死んだことを再認識ししっかり悲しめたのだろう。
積年蓋をしてきた想いが溢れ出すシーンは心が突き動かされた。

・最後
帰途に着く際にダイナーで"ブタを探さなかったら、心の中で生きていた"、"でも死んだんだ"という事実を受け入れたシーン。
人は様々な場面で味わう苦痛や悲しみを、受け止めて進まなければならないということを改めて噛み締め、妻の声と選曲されたテープを聴くラストシーンは最高でした。
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