イルーナ

劇場版ポケットモンスター/ダイヤモンド&パール アルセウス 超克(ちょうこく)の時空へのイルーナのレビュー・感想・評価

3.6
『ディアルガVSパルキアVSダークライ』は「パルキアのバカヤロー!」、『氷空の花束シェイミ』は人気投票、『幻影の覇者ゾロアーク』は配布ポケモンと、DP時代の作品はとかく内容以外で話題になりがち。
しかし本作は、ポケモン映画屈指の人気作『水の都の護神』と対になる作品だと、個人的には思っています。

まず『水の都の護神』の舞台アルトマーレは、ラティ達の犠牲前提で成り立つ街で、ラティオスが新たな「こころのしずく」として帰還したことや、古代の防衛装置が修復されたことで、その構造が維持されたままということが示唆される、冷静になって考えると不穏な結末。
一方こちらはまず前提として、舞台のミチーナは負の歴史を背負っていることが提示され、それを改善するのが目的。
最終的に「命の宝玉」の返還に成功したことで、ミチーナはアルセウスの力による庇護から脱却し、人間とポケモン達の努力で困難を超克した真の緑豊かな街へと生まれ変わる。
つまり、最後まで観ればタイトルの意味がわかる仕掛けになっているのですね。

さらに『水の都の護神』は「結局この事件は当事者以外誰にも知られなかった。しかし人知れず、他者のために命を差し出せる者は確かに存在するのだ……」「悪役は一応逮捕されたけどまったく反省してませんでした」に対し本作は「歴史に名を残したぜ!」「更生のチャンスを与えられる悪役」
……と、本当に徹底して『水の都の護神』の正反対を行く結末。
ネガとポジの関係みたいで興味深い。
あの作品は大好きな一方、現状維持で終わった結末にひたすらモヤモヤさせられ続けているから、胸がすいたような気分でした。

ただやはり話題にならないのは、良くも悪くも予定調和だからでしょうか。あちらは2つもパターン破りをやってのけているから、印象に残りやすい。

『水の都の護神』との比較論ばかり書きましたが、遠い昔の出来事が現在につながるという展開は、歴史を習っているとよく思い知らされますし、ダモスからの数千年越しのメッセージはグッときます。

惜しむらくは、本作は「アルセウスと命の宝玉をめぐる人間模様」がメインなため、ミチーナの描写が極めて薄いこと。せいぜい「緑豊かな街」くらいしかない。
さらにダジャレみたいなネーミングのせいで、名前でも損している。
過去作の「アルトマーレ」や「アクーシャ」などと比べたら、本当に致命的にダサいネーミング……
ロケット団がせっかく本物の「命の宝玉」を見つけたのに、結局「現在も一応本物が現存してました」くらいの意味合いしかなかったのもマイナスか。
あと、「神々の戦い三部作」のトリということで伝説ポケモン達のバトルに期待して観ると、確実に損をします。
蓋を開ければアルセウスのワンサイドゲーム。「神々」はサトシ一行とシーナを過去に送り飛ばすのがやっと。
せめてパルキアが水技を持っていれば……
イルーナ

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