やんげき

ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれからのやんげきのレビュー・感想・評価

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愛を苦しみとして描いた現代の青春映画の傑作!

LGBTQのラブストーリーでありながら形式的な要素が一つもない。それなのに紛れもなく2020年の今の作品で、問題提議もしっかりとなされつつ、観た人全員が自分の物語として受け取ることができる強度を持っている。

【あらすじ】
アメリカの小さな田舎町に住む、少女エリーがポールという男性からアスターという学校一の美女へのラブレターの代筆を頼まれる。エリーはレズビアンで彼女に惹かれていたがカトリック系の信仰が強い街では言い出すことは決してできず、エリーはアスターと手紙のやり取りを重ねお互いを理解していく。
その甲斐あってアスターとポールは順調に関係を進めていくが、ポールはエリーとの時間の中で次第に、自分の想いに気づき…。

というあらすじである。

【本作にしかない3つの魅力】
・文学的な匂いの醸造とテーマの深掘りと美しい伏線を同時に成す天才的な引用の数々

要所で挿入される「ベルリン、天使の詩」などの名作映画やサルトルの引用など、文化的で上品な作風ながら主題である「愛の形」に対する描写に繋がる鮮やかさ。
さらに演出の伏線としても使われる巧妙さは素晴らしい。ここまでキレイにハマるともはや感嘆しかない。

・安易なハッピーエンドでもなく、バッドエンドでもないが確かに希望を強く感じるエンディング

徹底して3人のキャラクターを掘り下げることで、「レズ」、「中国系二世」、「学校一の美女」、「馬鹿だがいい奴」といった記号的になりがちな要素をそれぞれの人間がもつレイヤーの一部まで昇華させている。

この掘り下げの中にあるそれぞれの葛藤と、想いの変化が起こす小さいけれど、大きなビッグバンこそ正に青春映画で描いてほしいことそのものなのだ。

・手紙やチャットを多用することで描いた内面と外面の愛に悶えるギャップ

手紙やチャットといった精神世界の中ではどこまでも分かり合い、溶け合っていくエリーとアスターだが、実際は代筆であり見ているだけの存在である静けさと切なさのギャップが素晴らしい。新たなLGBTQ映画の描き方でもあるが、秘めた片想いの切なさは万人共通ともいえる。

技巧的に最高で、キャラクターも最高で、テーマの着地の仕方も最高、音楽まで最高という、最高としか言いようのない作品。
そして、魯肉タコスドックめちゃくちゃ食べてみたくなる。
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