JUN

オールド・ガードのJUNのレビュー・感想・評価

オールド・ガード(2020年製作の映画)
4.3
最近のNetflixのオリジナル映画のクオリティの高さに驚かされるばかりです。映画業界で、これほどまでに安定した収入と立場を確立しているだけのことはあります。
近場で行くと『タイラー・レイク』や『6アンダーグラウンド』も個人的にとても評価の高いものでしたが、本作はそれを超えて個人的ベストNetflix映画です。

ただひたすらにセロンの黒髪短髪×アクションが観たかったがために観賞しようと思っていたのですが、まず、設定と世界観に驚かされました。セロン目的すぎて、あらすじを一切読んでなかったんです笑 でも実際は、あらすじを読んでいない方が良かったんじゃないかと、個人的には思いました。


【下記少しネタバレあり】


序盤の、彼らが"不死"であるということがわかるシーン。かっこよすぎます。傭兵アクションだと思っていたところを、一気に非現実的で心躍る唯一無二のアクションであることを悟らされる感覚。あらすじを読んでいたらもしかしたらこのシーンでこんなにも高揚感を得ることはできなかったのではないか、と思いました。
もうそれからは、ひたすら最高のキャラクター達とアクションと、しっかりと作られたストーリーを夢中で観るだけでした。傭兵ものだと思っていたのが、実はこの映画は「人を救う」というアクションではなく、「生への執着」を描いたテーマ性のあるもので、そのストーリーの奥深さにも、いつしか引き込まれていました。
"不死身"のアクションも最高で、FPSゲームのような爽快感が本当に好きです。私の中ではそれは『ジョン・ウィック』シリーズに当てはまっていたのですが、本作は本当の不死身のアクション。何百年も戦い、生きてきた彼らの無双っぷりは、ずっと観ていられそうです。
特にラストのビル内での無駄のない完璧な連携は、本当に格好良かったです。

ただ、なんといっても魅力的なのが、キャラクターたち。不老不死の最強傭兵軍団である彼らを通して、人間の歴史と死生観、倫理観を考えさせられました。本作の悪役は「人類の不老不死を願う製薬会社」なわけですが、人類は今まさに現実世界でも"老い"を敵とし"死"を悪と考え、'冷凍保存'の様な噂が立つほど、"健康的な生"への執着があります。
そこには「大切な人を失いたくない」という思いや「死への恐怖」、「老いて迷惑をかけたくない」など、様々なベースとなる思想があって、人類がテクノロジーを進化させ続ける限り、なくならないでしょう。
しかし、不老不死である彼らは「時が来る」ことに悲観的ではありません。セロン演じるアンディの「死に方は選べないけど、生き方は選べる」というセリフに、彼らの信念を垣間見ることができる気がします。

そしてそんなキャラクター達の更にいいところが、良い意味で非常識的なところ。本作では、アンディは"女性"ではないし、恋愛の要素を男性が担っていて、俳優さん達自身の出身も様々。
意図的に女性的ではないアンディの翻訳に、時代を感じましたし、それがアンディにぴったりで、今の時代、女性に女性らしさを強制しないスタイルに好感が持てました。
愛する女性を守るという展開が期待されがちなアクションでの恋愛要素を担うのは、900余年を共に過ごしてきたお互いを"運命の伴侶"と呼ぶ男性同士。本来相入れない敵同士でありながら、結ばれて、それだけの年月を共に過ごしてきても、あれほど互いを想い愛を超えた関係でいられるというのは、なんてロマンチックなんだろう、と思います。
自分が不老不死であるが故に訪れる孤独。それをそれぞれが抱えていて、残してきた者や救えなかった者への後悔だけが何百年も付き纏う。きっとこの時間内では描ききれないほど多くの事を彼らは体験し、成し遂げ、失い、それでも人々を救いたいと思う彼らの精神に敬服です。

"誰かを救うのに理由なんていらない。
今日私が助けたあなたは、
明日別の誰かを救う。"

人間は、救う価値のある存在なのでしょうか?
永遠に生きる価値のある生命なのでしょうか?
この映画は、ただアクションを楽しむものではなく、そういった疑問を私たちに投げかける強い意志を持った作品でした。

続編が楽しみです!
JUN

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