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流浪の月のJUNのレビュー・感想・評価

流浪の月(2022年製作の映画)
3.8
150分を超える長尺でありながら、あっという間に終わってしまった。むしろ、キャラクターたちの行間を読むには足りないくらい。
主演の松坂桃李、広瀬すずの素晴らしい演技に心を奪われる。そして、この映画によってファンクラブの会員数が減ったという横浜流星の怪演が印象的だった。この作品を通して、1番印象に残ってると言ってもいい。

それは決して悪いものではなくて(たしかに言動が最悪なDV男ではあったものの…)、言うなればフミとサラサをもう一度繋げるキーパーソンであることと、1番身近に感じる「可哀想」な人だから。
「可哀想」と形容することが正しいのかはわからないけれど、結局は彼もこの世界で生きづらい一人なのだ。分かりやすく「犯罪者」のレッテルが貼られたフミも、「被害者」のフィルターがかかったサラサも、他人からみたら一括りに「可哀想」といえる。しかし、フミもサラサも、(互いを除いて)他人に依存しないし、自分は可哀想ではないと面と向かって言える強さがある。苦しさを飲み込んで、生きていこうという意思がある。ある意味で言えば、誰よりも強い人たちだ。
しかし、リョウは違う。他人に依存してしか生きられず、愛情を求めすぎて自らそれを壊してしまう「弱い」人間。それが、この物語の中でフミやサラサよりもずっと身近に感じたし、人間らしくて。どこか絵空事のような、詩のようなフミとサラサの物語を、私たちの世界へと繋ぎ止めてくれているような気がした。


"
子供時分からぼくは他の子たちと違っていた。
他の子たちが見るように見なかったし
普通の望みに駆られて
夢中になったりしなかった。
悲しさだって、
他の子と同じ泉からは汲みとらなかった。
心を喜ばす歌も
みんなと同じ調子のものではなかった。
そしてなにを愛する時も、
いつも
たったひとりで愛したのだ。
だから子供時分のぼくは
嵐の人生の前の
静かな夜明けのころのぼくは
善や悪のはるかむこうの、
あの神秘に心をひかれたのだった。
そして今も、そうなのだ。
今も、あの奔い流れや、泉に、
山のあの赤い崖に
金色にみちわたる秋の陽の
自分をめぐる輝きに
疾風のように空をよぎるあの稲妻に
雷のとどろきに、
そして嵐に
そして雲に
(青い大空の中でそれだけが)
魔力ある怪物となった雲に
そうなのだ、
そんな神秘にひかれたのだ。
"


好きになることが罪と言われる苦しさも、好きになることが可哀想と言われる息苦しさも。この世には、言葉にすらできないことで溢れていて。
みんな違うと誰もが知っているのに、その許容値は驚くほどに狭い。完璧ではない世界で「普通」を説くことの矛盾に、一体どれほどの人が向き合っているだろう。

孤独な二人。その二人を繋ぎ止めるのは、この世界から消えてしまいたいと願うほどの悲痛な叫び。
辛くて、哀しくて、痛くて。それでも、手を握ってくれる存在に出会って。その温もりを頼りに寄り添う二人の物語は、驚くほどに温かい。


『サラサは、サラサだけのものだから。
誰の好きにも、させちゃいけない』

『フミだけが、私を好きにできる人だから』


辛くて、哀しくて。でも、同じくらい愛おしくて、美しい。涙なしでは観られない作品です。
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