ドント

トランスフォーマー/ビースト覚醒のドントのレビュー・感想・評価

3.6
 2023年。よかった。舞台は1994年ニューヨーク、病身の弟を抱えなかなか就職が決まらぬ青年は悪友の誘いに乗り車を盗むことに。車に入ったはいいが改心し「やっぱり犯罪はやめるよ」と降りかけると車が勝手に走りはじめた! 時を同じくして博物館インターンの女性は搬入されてきた謎の像に興味を持つ……
「とりあえずかっこよく変形して爆破してブッ壊しとけばええねやろ! おうっ!?」と完全大暴走モードであったトランスフォーマーシリーズに、『バンブルビー』に続いて差し入れされた落ち着いた菓子折りのような映画であった。仕切り直しというやつで、これは成功していると言ってよいだろう。けどかっこよい変形と爆破とブッ壊しはちゃんと温存してある。えらい。
 地球上の舞台はニューヨークとペルーだけ、駆け回る人間は2人きりというコンパクトさで、マイケル・ベイ的なアホシーンはあまりない。90年代半ばのイーストサイドのヒップホップと共に、「分割されたワープエンジンの奪い合い」「エンジンが起動すると地球滅亡」「異族間の友情」というシンプルなお話が展開していく。
 若干のムチャはあるがそのへんはチェイスや爆破やバトルで乗り越えていく。このあたり良い方のベイ・イズムが宿っている。全体に手堅い。カッチリとしている。ついでに言うと90年代米国におけるマイノリティ人種のあまり恵まれない感じもさらりと描かれている。このへんのバランスもよくとられている。
「うまいことやるなぁ」と感じつつ、無い物ねだりとは知りながらも「けどもう一発欲しいよなぁ」などと考えていて、見終わった今は「爆破や破壊を存分に浴びたけど、ちゃんとしていたなぁ」と思っていて、ベイフォーマーがあまりにも狂っていた分、ある種の物足りなさは覚えている。
 しかしながら。クライマックスのあるシーンで私は「Yeah!!!!!」と完全にアメリカ人になってしまったので、これは本作の勝ちと言える。トランスフォーマーでこういう熱さを浴びせられるとは想像もしていなかったので喜びも倍増である。こういう一瞬があるだけでもう、その映画は最高なんですよ。時間も本編117分くらいだと思うし、こういうのがもっと公開されたらよいなぁ、と思っています。
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